研究課題/領域番号 |
17J07622
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 東 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ES細胞 / iPS細胞 / 糖尿病 / 膵前駆細胞 / 増殖 / 低分子化合物 / siRNA / スクリーニング |
研究実績の概要 |
深刻なドナー膵組織の不足は膵島・膵臓移植が1型糖尿病に対する普遍的治療法となることへの障壁の一つとなっている。一方、近年では、再生医学研究の応用が大きな期待を集めており、特に、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)やヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から膵細胞を作製することは、新しい細胞源として有力である。その実現に向け安価で安定かつ効率的な膵細胞の供給源開発の基礎を築くことが、糖尿病に対する再生医療確立への活路を開く重要なステップである。そこで本研究では、ヒトiPS細胞から作製した膵前駆細胞の増殖を特異的に促進する低分子化合物AT7867の標的分子を特定し、膵前駆細胞の増殖機構を解明することを目的とした。 第一年度の目標として、AT7867の標的分子を網羅的かつ効率的に探索する系の確立を掲げ、研究を実施した。まず、siRNAスクリーニングの系を構築するため、条件の最適化を行った。具体的には、siRNA導入試薬、siRNA濃度、細胞播種密度、および画像解析法を最適化し、細胞毒性を認めず最も感度の高い測定を可能とする系を構築した。siRNAスクリーニングで用いる陽性対照として、細胞周期関連遺伝子CDC2およびAURKBに対するsiRNAの有用性を検証した。すると、これら遺伝子のノックダウンによって細胞周期停止を引き起こし、増殖が促進される条件下において細胞数を4割以下にまで抑えられたことから、標的探索スクリーニングにおける陽性対照として使用する条件が整った。 以上、第一年度研究計画のsiRNAスクリーニング系の構築を達成した。計画しているRNAシークエンスによる変動遺伝子の結果と組み合わせることで標的分子の特定を早期に達成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度の目標として、ヒトiPS細胞から作製した膵前駆細胞の増殖を特異的に促進する低分子化合物AT7867の標的分子を網羅的かつ効率的に探索する系の確立を掲げ、研究を実施した。 siRNAスクリーニングの系を構築するため、siRNA導入試薬やsiRNA量等の導入条件の最適化を行った。蛍光コントロールオリゴの細胞内への導入率を指標に比較した結果、Stemfect試薬が最も導入効率が高かった。次に、mRNAのノックダウンに十分なsiRNAの量を調べるために0から7.5 nMの間で濃度検討した結果、終濃度5 nMで十分なノックダウン効率を示すことが分かった。さらに、画像解析による正確な細胞数の計測のために膵前駆細胞の播種密度を検討した結果、導入試薬やsiRNAによる細胞毒性が認められず、播種密度が1.6×105細胞/cm2で最も感度の高い測定を可能とする系を構築することができた。 続いて、siRNAによるノックダウンスクリーニングによってAT7867の標的分子を特定するための適切なコントロールとして細胞周期関連遺伝子を陽性対照として用いることを考えた。そこで、細胞増殖が促進される条件下においてCDC2とAURKBに対するsiRNAの処理によって細胞周期停止を引き起こすことが可能であるのか検討した。その結果、CDC2およびAURKBのノックダウンによって細胞数が4割以下にまで抑えられることが分かった。細胞数の減少は細胞毒性によるものではなく、これら細胞周期関連遺伝子のノックダウンによる細胞周期停止が原因であることが示唆された。よって、AT7867の標的探索スクリーニングにおける陽性対照としてこれら2種のsiRNAを使用することが可能である。 以上、第1年度研究計画の化合物AT7867の標的を探索するsiRNAスクリーニング系の構築を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
1)RNAシークエンシング解析により候補遺伝子の抽出を行い、前年度に確立したsiRNAスクリーニング系と組み合わせて標的分子を探索する。 2)候補遺伝子の発現抑制にて増殖した膵前駆細胞が、増殖前の細胞や化合物で増殖させた場合と同等の機能を有するかを検証するため、それぞれの遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイもしくはRNAシークエンシングにて比較する。また、作製される膵前駆細胞が発生生物学的機能を有しているのかを検証する。そのために、試験管内で既報の膵内分泌細胞分化促進因子で培養すると同時に、免疫不全マウスへの移植を行い、膵β細胞への分化能を確認する。さらに、血中ヒトCペプチド値分析から膵β細胞の機能を評価する。 3)膵前駆細胞の増殖を促進する機構を解明するため、同定した候補標的分子の発現や活性が化合物によって抑制されるのか検討する。さらに、候補分子の下流シグナル伝達分子の直接活性調節を組み合わせることで、本化合物から細胞増殖に至る経路を推定する。 以上の研究により得られた結果を、国際学会にて発表すると共に国際誌へ論文投稿し、成果を広く公表する。
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