研究課題/領域番号 |
17J07627
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北 祐樹 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 爆弾低気圧 / 波浪 / 温暖前線 / 波浪スペクトル / 海洋波浪結合モデル / ハリケーン |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、1994年から2014年に北西太平洋上を通過した爆弾低気圧による波浪について、波浪モデルの再現計算結果をコンポジット解析し、波浪観測データとの比較も通じて、波浪の時空間発達を分析した。 まず波浪発達の特徴として、爆弾低気圧の最発達後に風速が弱化し始めても、波高はまだ数時間成長し続けることがわかった。これは、爆弾低気圧の発達が急速であるために、最盛期でも波浪は十分に発達しておらず、その後も強風からエネルギーを得続けるからである。第二に、方向・周波数スペクトルの狭い領域として、「進行方向に対して右側」と「温暖前線の寒気側」の2箇所確認された。爆弾低気圧が一定の方向に進行する際(主に北東)、進行方向に対してその右側では、一定方向の強風を波が受け続けることになるため、方向・周波数スペクトルの幅が狭い波浪が形成される。2箇所目の温暖前線の寒気側では南東風が卓越し、温暖前線付近では特にCold Conveyor Beltがその風を強化するため、その領域のスペクトル幅が狭くなったと考えられる。また、海面粗度や海面抵抗係数に関わる波齢や波形勾配も調べたところ、中心の左後方で波齢が小さく波形勾配が大きくなる傾向にあることが確認された。これは、低気圧の最盛期に生まれる強風域"sting-jet"により波の発達度が相対的に小さくなっているためである。以上のように得られた成果は、9月の国際学会にて発表し、Ocean Dynamics誌に投稿した。 また、ロードアイランド大学の研究グループと秋から行っている研究では、ハリケーン下の波-流れ相互作用を、海洋波浪結合モデルで陽的に計算する手法を提案した。波浪により生じるストークスドリフトの移流とシアーによる効果の効率的な計算手法を結合モデルを用いて考案し、その効果と他の運動量とを比較することで、ハリケーンの海洋応答に与える影響を推測した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
波浪再現計算のコンポジット解析により、爆弾低気圧の名前の由来である急激な発達は、低気圧そのものと波浪の発達に時間差を生じることが明らかになった。また、爆弾低気圧が持つ温暖前線が波浪スペクトルに影響を与えることを明らかにし、sting-jetが大気海洋相互作用についての特徴的な性質を生むという結果が得られた。 また、ロードアイランド大学との共同研究において、海洋モデルPOMと波浪モデルWAVEWACTH IIIの結合モデルを用いて研究を行ったことで、モデル結合方法やプログラミングについてなどの知見を得ることができた。そのスキル・知識は、今後の研究の基盤となる大気海洋波浪結合モデルの構築に必須であり、爆弾低気圧下における波浪の発達だけでなく波浪が大気・海洋に与える影響を正確に評価する上でなくてはならない手法である。
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今後の研究の推進方策 |
大気海洋波浪結合モデルを構築し、近年の爆弾低気圧の事例についてスーパーコンピューターを用いて計算を行う。結合モデルとして具体的には、海洋モデルROMS、波浪モデルSWAN、大気モデルWRFを用いて、ストークスドリフトやラングミュア乱流などの波浪影響をように計算できるモデル構築を目指す。そして、未だはっきりと解明されていない、爆弾低気圧の発達に対する波浪の影響やその下での大気海洋相互作用の評価を行う計画である。2018年1月にアメリカ東部で発生した爆弾低気圧は記録的な高潮・高波で災害を起こしただけでなく、海上ブイで13m以上の有義波高を記録した。このケースでは、いくつもの地点で海の流速や風速などを観測データがあることから、検証事例として適切である。このケースを用いて、波浪の再現精度の検証を行う。波浪の正確な再現には、風速・海の流速が外力として重要であり、波浪モデルの支配方程式やパラメータにも正確性が重要である。しかし、最新の第三世代波浪モデルでもスペクトル幅が過大評価されるなどの誤差が報告されており、波浪の正確な再現のために「外力条件」と「波浪モデル」の両面からの検証を行う計画である。
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