研究課題/領域番号 |
17J07644
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
屋宜 禎央 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | リーフマイナー / angulifasciella種群 / ツツジ科 / ブナ科 |
研究実績の概要 |
本年度は日本産モグリチビガ科Ectoedemia属の種の解明のために、主に野外調査や室内飼育を行なった。その結果、既知種11種に加え、20種以上の未記載種を含む本属のモグリチビガを採集することができた。 angulifaciella種群では、10種以上のツツジ科植物から幼虫を採集し、一部羽化にも成功した。その結果、ツツジ科を寄主とする種は少なくとも3種以上日本に生息していることが明らかになった。スイカズラ科ツクバネウツギ属を寄主とする種の2化目を確認するなど、本属の多くの種の化性を確認することができた。subbimaculella種群(satellite taxa)のうち、ブナを寄主とする3種を採集・羽化させることができ、カバノキ科からも少なくとも3種の未記載種の幼虫を採集した。また、日本で記録のないsuberis種群を確認した。ornatella種群では、既知種の他に、ムクロジ科、ブナ科からそれぞれ1種の未記載種を確認することができた。羽化することができなかった種に関しても、一部幼虫を無水エタノールに保存しており、今後DNA解析を行っていく予定である。 国内の分布情報に関しても、一部の県に非常に偏っていたが、日本各地で幼虫の残した潜孔の形状を確認することにより多くの種の分布に関する知見が集めることができている。 中国、台湾での調査においても、シナサワグルミ、キイチゴ属から本属と思われる幼虫を採集している。 さらに、Ectoedemia属では30種以上、モグリチビガ科全体では45種以上について、幼虫採集の際に、幼虫のいた葉を採集し、さく葉標本にすることで、産卵位置,幼虫の体の向きといった生態に関する情報を集めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ectoedemia属は、多くの種が年1化で昼行性であることから、成虫のサンプリングが難しく、幼虫を飼育羽化させる場合も半年以上の飼育が必要で、羽化率も低いことから研究が遅れていた分類群である。 本年度は日本各地での野外調査により、11既知種のほとんどと20種以上の未記載種を飼育羽化または、採集し、一部研究協力者から提供していただいている。さらに、潜孔、幼虫の観察により、多くの種において生態情報の蓄積ができている。ツツジ科やサクラ属をそれぞれ寄主とする種などは、多くの近縁な寄主植物から幼虫が得られているが、潜孔の形状は似通っており、形態にもほとんど違いが見られないホストレースと思われる集団が得られている。これらが、同種かどうか最終的な判断を行うためのDNA解析用の幼虫のサンプルは無水エタノールに保存している。 この他、国内外の小蛾類研究者との交流だけでなく、レピドプテリストセミナー等において、多くの愛好家との交流も行った。本年度の研究はサンプリングを行うことを主要な目的としていたため、研究の進展は概ね予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は得られたサンプルから各種の形態記載を行っていくと共に、DNA解析を行い、形態、分子情報から本グループの多様性を明らかにする。この際、形態的に異なっていても分子情報からは同種だと判断された、あるいは同種と考えていた種において分子情報から複数種含まれることが示唆された場合、幼虫や蛹の形態を含めたより詳細な形態の比較を行う。 野外調査を対馬や四国など調査が少なかった地域で行うとともに、化性の解明のために、ライトトラップなどの成虫の採集を含む調査も継続して積極的に行う。さらに、周辺国(中国等)でも調査を行うことで、日本産種の国外の分布の解明に努める。 正確な系統関係の推定を行うために、核領域を含めた複数の領域を用いて系統解析を行い、DNAシーケンスデータの蓄積を行う。博物館や大学等の研究機関に保存された古い標本などのDNAの増幅やシーケンスがうまくいかなかった場合は、自分自身で追加のサンプルを採集する。あるいは分子実験の追試を行ったり、新たなプライマーの開発を行うなどして系統解析に加えることができるように努める。このようにして得られた分子情報と地理的分布、潜葉習性や寄主植物などの要素を関連させることで、種分化に関わる要因を考察する。
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