研究課題/領域番号 |
17J07644
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
屋宜 禎央 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | リーフマイナー / 潜孔の形状 / ニレ科食者 / ブナ食者 / クルミ科食者 / ツツジ科食者 |
研究実績の概要 |
本研究は、多くの未記載種の存在が示唆されているモグリチビガ科Ectoedemia属の分類学的研究を行うことで、日本における本科の種多様性を明らかにするとともに、潜葉習性と寄主利用の進化を考察することを目的とする。 本属は、交尾器を含め近縁種間で形態が非常に似ており、形態の比較のみでは、同物異名などの誤りを引き起こす可能性があり、正確な同定にはDNA解析などを含めた多面的な方法を用いた総合的な判断が必要である。 本年度は、昨年秋に得られたEctoedemia属の幼虫を飼育し、羽化させることで多くの成虫を得た。その標本をもとに、形態の比較とDNA解析の両方を行うことで、種多様性の解明を行なった。DNA解析は、海外産種で特にデータの蓄積の多い、ミトコンドリアのCOI領域と核のEF1-α領域に関して行い、最尤法により系統樹を作成した。 日本のみでしか見つかっていない、ツツジ科を寄主とする未記載種については、ネジキを利用する種と、ツツジ属、ハナヒリノキ属、スノキ属など10種以上の植物を広く利用できる種の2種であることが明らかとなった。この2種はどちらも斑状潜孔を残すが、形態的にも遺伝的にも近縁ではないことが示唆された。 さらに、同様に日本のみでしか見つかっていない3種類の潜孔(線状、斑状、腸状)が確認されているブナを利用する種について検討を行なったところ、互いに近縁な4種が含まれることが示唆された。この4種のうち腸状潜孔を残す2種については、主に北東地域と南西地域に分布が分かれていることが示唆された。また、核領域を用いた系統樹に潜孔の形状をマッピングしたところ、ニレ科の葉に斑状に潜る種からブナに斑状に潜る種が出現し、その後、ブナに腸状潜孔、線状潜孔をそれぞれ作る種とクルミ科を利用するE. philipiが出現したことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に採集を行なった幼虫の飼育を引き続き行うことで、多くの成虫を羽化させることができた。それにより、日本産Ectoedemia属のほとんどの種について、成虫が得られるとともに、寄主植物との対応、潜孔の形状の解明も同時に行うことができた。 次に、特にデータの蓄積の多いミトコンドリアDNAのCOI領域と核領域のEF1-α領域について解析を行った結果、日本産本属は30種以上の未記載種を含む50種程度が生息していることが示唆された。 一方、幼虫の飼育羽化に至っていない種についても、幼虫のDNAを採取することで、ライトトラップ等で得られた成虫と対応づけることができた。さらに、得られた塩基配列をもとに最尤法による系統樹を作成し、得られた系統樹に、潜孔の形状や寄主植物等をマッピングした。その結果、angulifasciella種群のうち、海外では知られていないツツジ科やスイカズラ科をそれぞれ利用する種について、大まかな系統関係が示され、それぞれが近縁でないことが明らかになった。また、同所的に同じか近縁な植物を利用する複数種のうち、ブナを利用する種、キイチゴ属を利用する種はそれぞれ互いに近縁であることが示唆された。そのうち、ブナを利用する種には、線状、斑状、腸状潜孔を作る種がいるが、ニレ科に斑状に潜る種から、ブナ科に斑状に潜る種が出現し、その後、ブナに腸状潜孔、線状潜孔をそれぞれ作る種とクルミ科を利用するE. philipiが出現したことが示唆された。系統樹に用いた領域が少ないため、今後は領域を増やしてより信頼性の高い系統樹を作ることが期待されるが、本研究で明らかにしたい内容について、ある程度の結果が得られたことから、研究の進展はおおむね予定通りである。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続して、採集した幼虫の飼育を続ける。さらに、これまでに採集した幼虫を用いてDNA解析を行い、より多くの地点で得られたサンプルからより詳細な分布を明らかにする。成虫が得られていない寄主植物から採集した幼虫についてDNA解析を行い、各種の寄主範囲をより確実な根拠をもって明らかにする。現在飼育している種のうち、羽化しなかった種については、幼虫を採集した地点でライトトラップ等のサンプリングを行い、DNA解析を行って幼虫と成虫の対応をつける。subbimaculella種群については、羽化して得た成虫が少なくオスのみしか確認できていない種が含まれるため、過去にライトトラップ等で得られた標本を含めてDNA解析を行い、オスとメスの対応をつける。各種の潜葉習性については、キジムシロ属を寄主とする種などは潜孔の形状や糞の残し方などに個体差がある種が確認されているので、種内変異がどの程度あるのかを確認する。 Doorenweerd et al. (2015)を参考に、すでに解析を行った2領域に加えて、属内の系統関係を推定する上で適した核DNAの4領域に関して解析を行う。それにより、最尤法とベイズ法の両方を用いて、より信頼性の高い系統樹を構築する。得られた系統樹をもとに、各種群について、潜葉習性や寄主植物をマッピングすることで、潜葉習性と寄主利用の進化を考察する。 また、Nieukerken博士(ナチュラリス生物多様性センター、オランダ)と打ち合わせを行うとともに、海外産のサンプルを含めて解析を行う。 本研究で得られた結果について、順次Zookeysなどのオープンアクセスの雑誌へ投稿する。
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