本研究の対象であるモグリチビガ科は、幼虫が葉の中に潜む潜葉性小蛾類の一群で、その中でも寄主植物との攻防によって放散した最初の分類群であると考えられる。その中でも、Ectoedemia属は、他の多くの潜葉性小蛾類ではあまりみられない多様な潜孔の形状が確認されている。本属は、体サイズの小ささなどから採集が困難で、日本における多様性解明が不十分だった。そこで、これまでの調査によって得られたサンプルをもとに分類学的研究を行なった結果、30種を超える多くの未記載種を確認し、種多様性の解明に大きく貢献した。 また、ミトコンドリアおよび核DNAの6領域の塩基配列をもとに系統解析を行い、本属における日本産種の系統関係の推定を行なった。その結果、日本のみで見つかっているツツジ科を利用する2種は系統的に離れており、その近縁種それぞれでキイチゴ属とバラ属を利用する種が含まれることが推定された。このことは、モグリチビガ科において寄主転換による種分化は、特定の植物間で起こりやすい傾向がある可能性を示している。さらに、ブナを利用する近縁な5種に代表されるように、寄主植物を変えずに種分化したと推測された場合は近縁種間で潜孔の形状が大きく異なる傾向にあることが示唆された。このことは、潜孔をたどることによって寄主探索を行う寄生蜂への対抗戦略となっている可能性がある。以上の結果から、本属の多様化が地理的隔離や寄主転換だけでなく、寄生蜂への対抗戦略を含んだ、ボトムアップとトップダウンの両方によって引き起こされたことが示唆された。
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