研究課題
本研究では冷温帯性哺乳類における季節性毛色変化の分子メカニズムと進化史の解明を目的としている。本年度は冬季に白化/非白化の多型が見られるニホンノウサギついて、前年度に作成したドラフトゲノムをリファレンスに用いた、1)RAD-seqによるSNPと毛色多型の関連解析、2)雪上足跡をサンプルとした環境DNA解析の手法開発を行った。1)Chromium systemにより構築した富山産ニホンノウサギ1個体のドラフトゲノムに対し、北陸4集団のニホンノウサギ計79個体のRAD-seqデータをマッピングすることでSNPを検出し、毛色多型に対応するゲノム領域を探索した。北陸4集団には冬季白型と茶型が混在する集団、主に白型のみが見られる集団を含めた。4集団から合計10万以上のSNPを検出することができ、Association解析によって毛色と有意な相関が示すSNPを特定することができた。しかしながら、毛色多型の候補遺伝子と目されているAsip遺伝子領域とは関連しない領域であった。そのため、マッピングやSNP検出の条件等を行うとともに、相関が示されたSNP領域の近傍遺伝子の特定の必要性が示された。2)中大型哺乳類では野外でのDNAサンプル収集の困難である。そのため、雪上足跡から環境DNAを抽出し、メタゲノム解析およびサンガーシーケンシングによって種判別を行う方法を確立した。この手法により、シカや食肉類ではシーケンス配列から種判別に成功しており、ノウサギの雪上足跡からのターゲット遺伝子のPCR増幅にも成功している。ノウサギの毛色多型の原因変異領域を把握した後には、雪上足跡からDNA解析をすることで、広域での毛色多型の分布調査を実施することが可能となった。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は当初の予定通りニホンノウサギの全ゲノムを利用した集団ゲノミクスを実施することができ、冬季毛色多型の原因変異を探索する解析が着実に進んでいる。本年度の解析結果は、次年度のサンプル集やDNA解析の計画を立てる上で大いに役立つものであった。さらに、新たに環境DNAの解析手法を確立することに成功し、広域での野外調査も可能となった。
これまでに得られたニホンノウサギのドラフトゲノムとRAD-seqのデータに加えて、毛色多型の代表個体について全ゲノムリシーケンスを行い、SNPおよびゲノム構造変化についても解析を進めていく。さらに、北米のカンジキウサギのドラフトゲノムも活用し、ニホンノウサギ及びノウサギ属内における冬季毛色多型の原因変異の特定と進化的背景の推定を行う。ニホンノウサギの毛色多型が混生する日本海側地域の広い範囲で、雪上足跡から多数のeDNAサンプルを収集する。毛色多型の原因変異領域を増幅できるプライマーを作成し、毛色多型の詳細な分布域を把握し、積雪量や遺伝的集団構造等の情報とともに積雪環境への進化的背景や自然選択の影響について解明を目指す。
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