研究課題/領域番号 |
17J07666
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小田 研人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 反強磁性体 / スピン流 / XMLD / SMR |
研究実績の概要 |
反強磁性体は、磁気モーメントが互いに打ち消し合うように配列し全体として自発磁化をもたない磁性体であり、共鳴周波数がテラヘルツ領域にあることや、漏れ磁場が無いなどの特徴を持つ。現在、それらの特徴を利用したテラヘルツ発振素子や磁場に対して強固な磁気メモリが提案され、反強磁性薄膜に関する研究が盛んに行われている。そこで反強磁性体を素子応用するにあたり、反強磁性体の磁気相転移温度をはじめとする物性を検出することが重要である。本研究では磁性体の磁化配向に応じて、隣接した非磁性重金属層の抵抗値が変化するスピンホール磁気抵抗効果(SMR)に着目し、磁気相転移温度を290 Kにもつ反強磁性体CoOを用い、SMRの温度依存性を調査した。 実験では、Pt4 nm/CoO10 nm/Pt4 nm//MgO(001)薄膜をマグネトロンスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィ法により細線幅5 um、細線長さ25 umのホールクロス構造に加工した。薄膜面内方向に24 Tの磁場を印加して回転させ、電流と磁場との相対角度がαのときにおける縦抵抗値と横抵抗値を測定した。試料温度はCoOの磁気相転移温度290 Kを跨ぐ240 ~ 320 Kで変化させた。その結果、縦磁気抵抗値はcos2αにしたがって変化する一方で、横磁気抵抗値は-sin2αにしたがう変化を示した。得られた抵抗変化比を試料温度に対してプロットした結果、およそ磁気相転移温度のときに抵抗変化比が極小を示した。これは、反強磁性由来のSMRと常磁性由来のSMRによる抵抗変化が互いに打ち消したためと解釈できる。したがって磁気相転移温度をSMRを介して電気的に検出することに成功した。 また、放射光施設にて、XMLD-PEEMによるバルクNiOの磁気イメージングを行った。その結果、NiOの磁区がパルス磁場に応答して変化している様子を観測することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究費を申請する際に計画した反強磁性体磁化の電気的な書き込みと読み出しは昨年度に既に成功しており、本年度では、更に反強磁性体の磁気的相互作用に着目した電気測定を行った。その結果、試料温度が磁気転移温度で磁気抵抗変化比が最小を示すという期待通りの実験結果を得ることに成功した。これは、反強磁性体を用いたメモリにおいて、試料温度が磁気転移温度にまで加熱されると得られる抵抗値のスイッチングの大きさが小さくなることを示す。また、反強磁性体の磁場に対する磁化応答の様子を磁気イメージングにも成功した。この知見は、反強磁性体磁化の電気的な書き込みにも応用できるものである。
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今後の研究の推進方策 |
まず、XMLD-PEEMイメージングで得られたNiOの磁区を解析し、静的な磁化状態や、磁場応答の機構を解明する。それと並行して、反強磁性体磁化のスピントルク制御の実験について、SMRを介して得られる抵抗変化比が試料温度の上昇とともに大きくなる問題に取り組み、その結果をまとめて論文化する。
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