近年、非磁性重金属中に対して十分に大きな磁場を印加すると、その印加角度に応じて電気抵抗が変化するハンレ磁気抵抗効果(HMR)が報告された。HMRは、スピンホール効果により界面に誘起されたスピン蓄積が、ハンレ効果によって歳差運動することにより生じる効果である。すると、金属中のスピン蓄積が拡散される方向が変化するため、その見かけ上の電気抵抗は変化する。これまで、HMRは白金(Pt)を始めとした様々な重金属中で観測されたものの、その温度依存性は調査されていない。今回、我々はHMRの温度依存性を測定し、その挙動について考察を行った。 磁気相転移温度を118 Kにもつ反強磁性体酸化マンガン(II)基板上に膜厚5 nmのPt薄膜を蒸着し、素子加工した。まず、素子抵抗の磁場依存性を測定した。系の温度が120 Kのとき、電流方向の磁場印加によって電気抵抗は磁場強度の増大とともに増大し、次第に飽和する挙動を示した。一方、スピン分極方向の磁場印加による電気抵抗変化は観測されなかった。一連の実験結果はHMRにより説明することができる。これら2つの電気抵抗率変化の差分をΔρ1と定義し、試料の電気抵抗率ρを用いてその磁気抵抗比をΔρ1/ρと定義した。 次にこの素子を用いて120 Kから300 Kの温度範囲で磁気抵抗効果の温度依存性を測定した。今回得られたΔρ1/ρを磁場や抵抗率の関数で表現し、それをHMRの理論式を用いてフィッティングを行った。その際各々のパラメータの温度依存性を反映するように理論式の展開を行った。フィッティングシミュレーションを行った結果、得られたスピンホール角や電子の拡散効率は妥当な値となった。したがって、HMRの温度依存性はこれらの物理量が温度に依存することにより説明できる。故に、HMRを介したPtのスピン流源としての物性や膜質などの材料特性を調査できることが明らかになった。
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