研究課題/領域番号 |
17J07699
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
子安 翔 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 腫瘍 / 低酸素 / がん抑制遺伝子 / HIF-1 / 浸潤 |
研究実績の概要 |
まず、HPF-4 のHIF-1 活性化に関与する機序を効率よく同定するため、HPF-4のdeletion mutant ライブラリとして各ドメインおよびリンカーを除去した16種類のmutant、報告されているR261Wの変異タンパク、翻訳語修飾が報告されているS341、K362のアラニン置換体等も含めて作成した。これらにより、N末端の23塩基を除去することでHPF-4はHIF-1活性化能を失うことが確認された。また、報告されているR261W変異や修飾されるアミノ酸残基S341、K362のアラニン置換体についてはHPF-4のHIF-1活性化能には関与しないことが確認できた。現在、さらにN末端の塩基の中でessential な残基を検索中である。
一方で、タンパクのデータベースから、HPF-4と相同性の高いhMN (human myeloneurinkj) というタンパクに着目し、結晶構造を解析したところ、hMNはN末端部で二量体を形成することが分かったため、HPF-4も二量体形成するかどうかを、二種類のタグ(mycタグ、V5タグ)をC末端に融合したHPF-4を用いて共免疫沈降法で確認したところ、HPF-4が二量体(正確には二量体以上)を形成することが確認できた。また、split したLuciferaseをもちいてHPF-4同士が結合しているかどうかを確認する系を融合タンパクを作成する発現ベクターを用意して確立し、少なくとも二量体を形成することをこちらの系でも確認した。HPF-4自体の結晶構造はまだ解かれていないため、現在、HPF-4の結晶を京都大学大学院医学研究科分子細胞情報学(岩田研究室)との共同研究で作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
癌細胞の低酸素応答と放射線抵抗性を担う新規遺伝子であるHPF-4についての研究の初年度として、メカニズム解析の部分では、生物学的アプローチを用いてHPF-4の活性に必要であるアミノ酸を絞り込むことに成功した。 一方で相同性の高いタンパクを用いたデータベース解析によって二量体形成を予想し、HPF-4についても同様の現象が生ずる仮説を立て、それを実証した。その際に必要なアミノ酸の候補を得ることに成功している。これは、HPF-4を標的として創薬や結合薬を考案する上で同アミノ酸がターゲットになりうる可能性を示唆し、礎となる極めて重要なデータである。 また同時進行で、HPF-4の機能の探求としてマウスおよびショウジョウバエをもちいたin vivo の実験のためのマテリアル作成として、マウスでの腫瘍形成能を持つHPF-4の安定導入細胞の樹立、ショウジョウバエでのHPF-4発現ベクターの作成など、着実に進展させ、次年度以降の研究の下準備も万全に行うことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
HPF-4 によるHIF-1 活性化機構の解明を構造解析や分子生物学的アプローチにより行う。HPF-4の二量体形成の重要性を示唆するデータが一年目に得られたので、具体的には、現時点ではまだ得られていないHPF-4の結晶を得ることで、二量体形成に必要なアミノ酸残基を数アミノ酸以下の領域に絞り込み特定する。また、上述のアミノ酸残基計算科学的アプローチと分子生物学的アプローチを統合して、HPF-4 に結合して二量体形成を阻害する可能性のある分子を設計し、分子生物学的アプローチで圧制してそれらの薬剤からスクリーニングする。 また、HPF-4がHIF-1を活性化することで生ずる表現型をin vitroおよびin vivoで検証する。まず、HPF-4を過剰発現させた細胞をマイクロアレイで解析することでHIF-1の下流の中で発現上昇がみられる遺伝子群を効率的に同定する。次にその結果から想定される表現型がHPF-4の発現上昇によって生ずるかを検証する。申請者らはレンチウイルスを用いてHPF-4を安定的に導入した癌細胞をすでに樹立しており、同細胞を免疫不全マウスに移植して作成した腫瘍を用いて表現型を確認し、それらの表現型がp53のステータスによって影響を受けることを確認する。一方で、内因性にHPF-4の発現が高い細胞としてヒト骨肉腫由来のU2OS細胞が知られているため、これを入手し、shRNA によるノックダウン株の樹立を試みる。 また、申請者はショウジョウバエにおいてHPF-4を発現させるベクターを昨年度作成しているため、ショウジョウバエの腫瘍播種モデルを用いてこれらの仮説を検証していく。仮説を支持するデータが得られた場合には、HIF-1の依存性を確認するためにショウジョウバエでのHIF-1αの相同タンパクであるsima をノックダウンすることでその表現型が抑制されるかを確認する。
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