研究課題/領域番号 |
17J07706
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三浦 郁修 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 水系感染症 / ノロウイルス / 数理疫学 / 統計モデル / 環境サンプル / ウイルス濃度 / フィールド調査 |
研究実績の概要 |
本研究では,医療サーベイランスが整備されていない発展途上国において,水系感染症リスクを定量することを主たる目的としている.第一年度は(1)電子端末を利用した簡便なサーベイランスシステムの構築と(2)そのシステムで回収された疫学データを解析する数理疫学モデルの構築を達成事項として設定した. (1)電子端末を利用したサーベイランスシステム β版がすでに開発できている.日本国内で試運転を実施し,蓄積されているデータや現地のステークホルダー・共同研究の可能性の観点から,適用する調査地域も選定した(ベトナム,フエ).気候データ,JICA主導の上下水道インフラ調査データ,さらに東京大学や山形大学が行った病原微生物の存在状況のデータを集積した.現在はシステムの試運転を行うことと並行し,現地の医療機関からのデータ提供, 調査対象地域での予備調査の計画を行い,本調査での効率的なデータ回収に向けて. (2) 数理疫学モデルの構築 本研究においてはノロウイルス等の下痢症を主なターゲットとして設定しており,以下の3つのスタディでその感染リスクや感染動態を歴史統計に基づきながら実証的に推定した.第一に,日本で生じた食品由来のアウトブレイクから,ノロウイルス感染の不顕性割合を統計的に推定した.ノロウイルスは多様な遺伝子型をもつが,異なる型同士に大きな差はないことも示した.第二に,日本で行った調査票調査を元に,(家庭内における)単位接触あたりのノロウイルス感染の確率を顕性・不顕性感染別に定量した.不顕性感染者は顕性感染者よりも感染性が高く,疾病の流行を防ぐためには不顕性感染の存在も考慮した施策を検討する必要があることが示唆された.第三に,日本国内で流入下水中のウイルス濃度を時系列でモニタリングすることで,その下水道に網羅されている地域内の感染者数が間接的にモニタリングできることを統計モデルの観点から示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(a.第一年度の研究計画) 国や県レベルでの医療サーベイランスが整備されていないような発展途上国において,水系感染症リスクを定量することを目的として,第一年度は①対象地域における電子端末を利用した調査票調査システムの構築と②そのシステムで回収された疫学データを解析する数理疫学モデルの構築を本年度の達成事項として設定していた. (b.達成状況) ①の対象地域における電子端末を利用した調査票調査システムについては,β版がすでに開発できている.さらに,蓄積されているデータや現地のステークホルダー・共同研究の可能性の観点から,適用する現地調査の地域も選定した(ベトナム,フエを主な対象とする).本研究で開発するサーベイランスシステムのデータだけではなく,現地の医療機関からの提供データ,気温や降雨などの気候データ,JICAが行った上下水道インフラ調査のデータ,さらに東京大学や山形大学が行った病原微生物の存在状況のデータを集積した.こうしたデータと組み合わせることで,実際に生じている水系感染症リスクをより詳細に解析する. ②の数理疫学モデルについては,すでに集積されている疫学データを用いて複数の解析を行い,学術誌へ投稿,採択されている.本研究において疾病負荷を解析する感染症として,ノロウイルス等を主なターゲットとして設定しているため,すでに生じているアウトブレイク等で集積された疫学データを元に,ヒト社会の中でどのようなプロセス・確率で感染が伝播しているのかを実証的に定量した.すでに3つのスタディを完了しており,第一の研究は学術誌へ採択済みであり,第二の研究は国際会議での発表後に投稿済み,第三の研究についても国際会議で発表を行っている(本年度も国際会議の口頭発表に採択済みであり,論文投稿については執筆中である).
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今後の研究の推進方策 |
計画していた以上に数理疫学モデルの構築を推進することができている一方で,電子端末を用いてサーベイを行う上での課題が想定以上に存在している.また,細かいタイムステップでのデータ取得やそれに伴う精緻な時系列データの回収が難しいことからも,対象とするデータの粒度を下げざるをえず,採択時に予定していた機械学習アルゴリズムでの異なる計算結果の統合は難しいと考えられる.したがって本年度は代替的な手法を再検討し,よりデータが少ない場合でも行うことのできる疫学解析結果とシミュレーション結果の比較や統合を行っていく.すでにテクニカルな部分ではいくつかの候補を予定しているため,それらを検証しながら,来年度の他のデータとの統合も念頭におきながら選定していく.
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