研究課題/領域番号 |
17J07733
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鄭 祥子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 太陽 / スピキュール / 彩層 / コロナ / 加熱 / 波動 / IRIS / ジェット |
研究実績の概要 |
本研究課題では、太陽観測衛星 IRIS による太陽の撮像・分光観測データから、スピキュールとよばれるジェット現象と、スピキュールを伝播する波動について迫る。 本年度は、 IRIS の撮像データからスピキュール中の波束とその時間変化を自動検出するプログラムの開発に注力した。これは、本課題の撮像観測データ解析において最も重要かつ難しいと予想していたものであり、このアルゴリズム開発について深く探求することができたことは大きな前進である。 スピキュールの筋状構造を抽出するのにあたっては、ひので衛星のカルシウム画像データを使用した先行研究で用いられた方策を、今回使用する IRIS データに適用した。これにより、筋構造を抽出し、スピキュールを時系列に検出するアルゴリズムができた。ただし、波束を捉えるのに十分滑らかにはスピキュールの筋構造を抽出できていないため、微細構造抽出法の修正を試みている。 上記は、当初から研究計画の初年度に予定していた研究であるが、本年度はこれ加えて、太陽面中心領域における彩層の撮像分光観測データの解析にも取り組んだ。この解析では、スピキュールの生成に深く関わると考えられている衝撃波を捉えることができている。今後、衝撃波や波動が磁場や環境にどう依存しているかについて調べていく。これより、スピキュールの生成機構に迫り、スピキュールを伝播する波動の生成に強く制限を与えることができると考えている。 前者の自動検出プログラム開発にあたっては、IRIS 衛星の運用拠点である米国のロッキードマーティン太陽天体物理学研究所で滞在研究をし、IRIS のデータ解析やスピキュールの観測データの解釈等について、先方の研究者と意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、太陽観測衛星 IRIS がこれまで取得してきた撮像観測データから、本研究で統計的に解析しうるための 3 つの条件(1. 観測時期、2. 観測領域、3. データの時間間隔)を満たすものを調査した。 この過程において、IRIS 衛星の観測装置が経年劣化するのに伴って観測データの質がわるくなっていくことを確認し、データの質がよい初期のデータを使用する必要があると判明した。 次に、その中でも特に観測条件の良さそうな試験データを用いて、スピキュールの筋状構造を時空間的に抽出するためのアルゴリズムを開発した。その際、先行研究で使用されていたものと同じ微細構造抽出法を用いることから始めた。この抽出法では、さまざまな時間的・空間的スケ ールに対してパラメタを与える必要がある。本研究では、IRIS のデータ用に最適なパラメタを調査した。しかし、最適だと考えられるパラメタを用いても、同抽出法では筋構造を十分なめらかには取り出すことはできなかった。これは、先行研究で用いられていたひので衛星によるカルシウム画像データに比べ、IRIS の撮像データの時間空間分解能がわるく、SN 比が小さいためであることが分かった。そこで、SN 比の小さいデータから、いかになめらかに筋構造を抽出できるかに専念することとし、現在、微細構造抽出法について再考中である。 加えて、IRIS 衛星による太陽面中心領域における撮像分光観測データの解析にも取り組んだ。これにより、彩層における衝撃波や波動の伝播を捉えた。現在、衝撃波とスピキュールの関係について調査している。
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今後の研究の推進方策 |
微細構造抽出法を確定し、開発したアルゴリズムを他のデータセットに対しても適用する。検出した波束から必要な物理量を抽出し、波動のエネルギー散逸量と太陽縁からの高度、及び波の周期との関係について、活動性の異なる領域ごとに統計的に調べる。 波束の抽出を通して、波動の伝搬と散逸についての考察を進め、解決法と解析結果を投稿論文にまとめる。 上記工程に目処がつき次第、2 年目に予定していた太陽縁の分光観測データを用いた解析についても本格的な解析を進める。分光データから波動の非熱的速度と視線速度の高度変化について調査する。高度ごとに非熱的速度と視線速度を導出し、高度に伴う非熱的速度の減少量からエネルギー散逸量を見積もる。また、ドップラー速度と撮像観測データから検出した 2 次元運動とを組み合わせることで、波動の 3 次元的な運動を明らかにする。そして、その揺れの方向や回転の有無などを調べ、波動のモードを同定することを目指す。これにより、活動性の異なる領域ごとに波動の散逸機構についての手がかりを得る。上記解析結果と議論を投稿論文にまとめる。 また、初年度に始めた、IRIS 衛星による太陽面中心領域における撮像分光観測データの解析の続きとして、衝撃波や波動が磁場や環境にどう依存しているかについて調べることで、スピキュールの生成機構に迫りたいと考えている。この結果と、太陽縁の分光観測データを用いた解析の結果と合わせることで、スピキュールとそれを伝播する波動により一層迫っていく。 2年目も、ロッキードマーティン太陽天体物理学研究所での滞在研究を予定しており、1年目同様、IRIS のデータやスピキュールの観測について、先方の研究者と意見交換を行う予定である。特に、解析結果の解釈についての議論を深めたい。
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