研究課題/領域番号 |
17J07754
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
森津 学 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | ドリフトチェンバー / ガス検出器 / ミューオン / ミューオン・電子転換 / レプトンフレーバ非保存 / J-PARC |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、宇宙線を用いた円筒型ドリフトチェンバー(CDC)実機の性能評価試験を進めた。CDCの読出しチャンネル数は4986チャンネルに上り、104枚の読出し回路基盤を使って信号をデジタル化してデータ収集をおこなう。CDCの性能評価試験は3段階に分けて実施する計画であり、第1段階ではCDCの一区画の約300読出チャンネルのみを使用し、最小限のセットアップで読出し回路とデータ収集系の構築および解析手法の確立を実現した。本年度は第2段階に移行するために必要な実験装置の整備をおこなった。まず、未実装であったフィードスルーから先のケーブル配線を完了し、全領域に渡って高電圧を印加できる体制を整えた。コンディショニングによって全領域において1800 V以上の高電圧が適切に印加できることを確認した一方、3箇所の不良ワイヤーを特定し張り替えをおこなった。さらに、張り替えたワイヤーの張力を測定するためにCDC架台に回転機構を導入し、ワイヤー修理保守体制を整えた。その他にも、ガス流量を遠隔制御できるマスフローコントローラーシステムの構築、読出し回路にトリガー信号等を分配する回路の試験、電磁ノイズを遮断するためのシールド機構の導入などを実施した。これにより性能評価試験は第2段階に移行することができ、読出チャンネル数を2倍に拡張して広い有効領域を確保してCDCの基本性能評価のためのデータを収集した。現在までに位置分解能170 um以下、検出効率95%以上を達成し、ガス拡散係数や初期電子イオン対生成数も文献値とほぼ一致しており良好な結果が得られている。一方、現在のセットアップでは宇宙線の入射角度が限定的であるために、セルのビーム軸方向位置依存性に関する評価にはデータが不十分であることもわかった。今後はさらに読出し領域を拡張して入射角度やビーム軸方向位置依存性などの詳細な研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の計画通りCOMET実験に用いる円筒型ドリフトチェンバー(CDC)検出器の性能評価試験を実施した。年度当初は高電圧印加時の放電問題の解決に多くの時間を費やしたが、忍耐強い調査の末に特定のワイヤーに問題があることを突き止め、ワイヤーを張り替えることで根本的解決へと導いた。その後に行われたCDC検出器の試験においては、使用できる電子回路の制限から検出器の全領域を試験することに限界があったが、入念に工程の再検討を行い段階的に信号を読出す領域を拡張して当初の研究計画を堅持した。研究遂行時には共同で研究する複数の大学院生を当該大学の指導教員とともに指導し、装置開発やデータ解析において、時には長時間に及ぶ議論も厭わずに熱心に取り組んだ。こうして指導した大学院生の一人は本年度にCDC検出器の開発研究で修士号を取得している。 また、前述のCDC性能評価試験に加え、本年度は1~2月にJ-PARCにおいて8 GeV加速試験およびビーム純度(エクスティンクション)測定実験をおこなった。COMET実験で用いる8 GeVの陽子ビームを加速し、今回初めてハドロン実験施設に取り出すことに成功した。高エネ研の研究者らと協力して申請者は主にエクスティンクション測定において検出器信号を処理して読出し回路に送り、トリガー信号を生成する回路の構築と調整を担当した。エクスティンクションはビームバンチ内の粒子数に対するバンチ外の粒子数の比で表されるが、今回の試験においてCOMET実験の要求を満たす6×E-11以下の値を得ており、本実験遂行に向けての大きな一歩となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き円筒型ドリフトチェンバー(CDC)実機の宇宙線を用いた性能評価試験を進める。この試験は3段階に分け て実施する計画であり、これまで第1段階でのデータ収集セットアップの確立と実証試験、第2 段階での読出チャンネル数を拡張したCDCの基本性能の評価試験を完了した。検出効率、位置分解能、ドリフト距離と到達時間の関係等の基本特性が要求を満たしていることを確認した。来年度はいよいよ最終段階である第3段階に移行する。第3段階では4986チャンネル全部を読出し、本実験と同様の状態で長期間のデータ収集をおこなう。そのためには読出し回路に必要な低電圧電源や光ファイバーケーブルなどの機器を全数分揃えて実装し動作させる必要がある。また電圧、電流、温度などの情報を制御、監視、記録するシステムを構築する。トリガー分配システムやデータ収集システムもこれまで用いてきた暫定的なシステムから本実験で用いるシステムへの改良も予定している。CDCの全領域の高統計のデータを使うことで、これまで評価できていなかった宇宙線の入射角度やセルのビーム軸方向依存性についても詳細な研究が可能となる。本実験と同様の状態での長期運転を確立し、J-PARCへの移送と検出器ソレノイド磁石へのインストールへ向けて準備をおこなう。
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