研究課題
平成29年度は 本研究課題の目的は地域在住高齢者を対象とした縦断追跡の観察研究から、(1)フレイル(虚弱)新規発症や回復に影響する要因を同定すること、(2)フレイルのリスク保持者を簡便にスクリーニングする方法を開発することで、より効率的で広域なフレイル予防展開に貢献することである。さらに(3)地域での簡易介入プログラム「市民フレイルサポーターによるフレイルチェック」の多面的なフレイルに対する効果を検証することである。これらの研究目的を達成することにより、多面的なフレイルのエビデンス構築や地域でのフレイル予防法・健康増進運動論の確立を目指していく。平成29年度では、目的(1)に関して、多面的なフレイルと負の健康アウトカムとの関連および予測因子の同定として疫学研究からの知見を報告した。具体的には、①歯科口腔面のフレイル(オーラルフレイル)や、身体的フレイル、社会的フレイルが地域高齢者の身体的フレイル、サルコペニア(加齢性筋肉減弱)、要介護や死亡リスクを高めることを明らかにし、報告した。②認知機能低下がみられない身体的フレイルあるいは予備群と比較して、認知機能低下と身体的フレイルや予備群が重複した者(認知的フレイル)は、要介護リスクやWell-beingの低下が起こりやすいことを報告した。また、多剤併用の問題とフレイルとの関連なども報告した。目的(2)としては、身体的フレイル(サルコペニア)の簡易スクリーニング法として「指輪っかテスト」を開発し、その妥当性を明らかにし報告した。目的(3)に関しても、多くの自治体で集約されたフレイルチェッデータから、フレイル予防への動機づけや、口腔機能向上や社会参加の推進に効果的である可能性を明らかにした。平成30年度はより多くの知見の英文論文化やフレイルチェック参加の有用性をより追求していく。
2: おおむね順調に進展している
当該研究はおおむね順調に進呈している。目的(1)、(2)に関しては、当初予定していた多面的なフレイルに関する報告や簡易スクリーニング法に関する報告を多くすませ、ほぼ全てにおいて学術集会ての報告までは完了している。また、最も学術的な報告が困難だと考えていた口腔機能低下の重複「オーラルフレイル」に関する報告も老年医学では権威のある学会誌に原著論文として掲載されている。歯科口腔面のフレイルは国際的に初出のエビデンスである。また、本研究では研究には留まらず、実社会への還元性も加味して検討を進めている。したがって、身体的フレイルのスクリーニングツール開発に向けても、高額機器等は一切用いず簡便な指標のみで検討を進めている。本研究では「指輪っかテスト」がすでに原著論文として掲載したが、このテストも科学的根拠の検討が困難であった項目の1つである。したがって、目的(1)、(2)に関する最大のハードルは超えており、またすでに英文論文を数本投稿済みである。さらに目的(3)に関しても、フレイルチェック活動のデータが全国から収集されてくる基盤整理がある程度完了しつつある。平成29年度ではプレ調査の解析結果を示したが良い結果を得ることができた。科学的な研究デザインには限界があるものの、目的(3)に関しても大きく進展している。また、代表者は本研究の結果を報告した学術集会において、平成29年度は計3回の受賞をいただけた。したがって、研究計画の達成はおおむね順調に進呈していると考えている。
研究成果の英文論文化をさらに加速させる。また新たな研究として次にあげるような視点を特に検証し、結果を学術的に報告していく。目的(1)では、① 社会的フレイルの構成要素を、社会経済状況を含めた視点から再構成し改めて社会的フレイルの提案を行うことで、新たな介入・支援のポイントを同定していく;② フレイルの可逆性を加味した検討を行う。フレイルの行き着く先ではなく、フレイルが可逆的に改善をみせるのか、その具体的な要因を探索する。目的(2)では① 「市民主体のフレイルチェック」プログラムで用いられている簡易チェック(指輪っかテストと11項目の質問票)の外的妥当性や信頼性等を全国のフレイルチェックから得られたデータを用いて検証していく。② また平成30年度の歯科診療報酬改定で口腔機能検査や指導に対する加算がついたこともあり、評価加算がついた検査を用いて、オーラルフレイルの評価基準値を探索する。さらに、歯科医療現場という受け皿が産まれたことで、地域でのオーラルフレイル簡易スクリーニング質問票を開発し、地域におけるオーラルフレイル予防の基盤構築に貢献する。目的(3)では、全国から収集されたフレイルチェックデータおよび質的研究アプローチにより、フレイルチェック自体の効果検証を進めていく。学術的な限界は多いものの、フレイルチェックの有効性を確認することは極めて重要である。さらに、フレイルチェックの自治体への導入方法論などをまとめたマニュアル作成を行い、特異的な一部の自治体のみが実現可能なフレイル予防活動から脱却し、標準化方法論の開発をめざす。これらの研究目的を達成することにより、多面的なフレイルのエビデンス構築や地域でのフレイル予防法・健康増進運動論の確立を目指していく。
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Geriatrics & Gerontology International
巻: 18 ページ: 224~232
https://doi.org/10.1111/ggi.13163
The Journals of Gerontology: Series A
巻: - ページ: -
https://doi.org/10.1093/gerona/glx225