研究実績の概要 |
高度なスポーツパフォーマンスや精緻な運動制御を実現するためには、意思決定を適切に行うことが不可欠である。それにも関わらず、ヒトは失敗確率の高い運動を計画してしまうことが繰り返し報告されている(Ota et al., 2015; 2016; O’Brien & Ahmed, 2013 など)。本年度はこのようなハイリスク行動を改善し、運動意思決定の最適化を支援する方法の開発に取り組んだ。ヒトは無意識の内に対戦相手の運動を模倣することが知られており(Naber et al., 2013)、他者の存在は運動・認知システムに大きな影響を与えている。そこで本研究では、仮想の対戦相手の存在により、最適な運動意思決定が誘導される可能性を検討した。実験課題として競争リーチング課題を開発した。この課題では、リスク下においてどこを狙って運動をするかという意思決定が求められた。実験参加者は、対戦相手なしで総得点を最大化する1 人課題と、対戦相手と総得点を競う対戦課題を実施した。実験の結果、1 人課題の際は、失敗確率の高い運動計画を選択するものの、相手と初めて対戦する際には、リスクを避けるような消極的な運動計画が取られることが明らかとなった。さらに、リスク最適に行動する強いコンピュータと対戦するよりも、リスク回避的に行動する弱いコンピュータと対戦する際に、最適な運動計画が達成されることが明らかとなった。この理由として、対戦相手の運動意思決定は参加者の意思決定に対して、非線形な影響を与えていることが確認された。以上の結果は、特に消極的で弱い相手との対戦が、運動意思決定の最適化を支援する可能性を示している。
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