研究課題/領域番号 |
17J07847
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
木村 栄輝 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 発達神経毒性 / 超音波発声 / 幼若期行動 / マウス / ダイオキシン |
研究実績の概要 |
本研究では、化学物質の周産期曝露が幼若マウスの鳴き声(超音波発声)に及ぼす影響を調べ、行動評価試験における超音波発声の有用性を検討することを目的とした。 まず最初に、曝露影響の有無を効率的に判断するための超音波測定実験の条件検討を行い実験プロトコルを確立した。このプロトコルを用いて、発達神経毒性を引き起こす事が知られているダイオキシン(TCDD)について曝露が幼若マウスの超音波発声に与える影響を調べた。その結果、TCDD曝露をうけたマウスでは溶媒のみ投与した対照群マウスと比べて発声時間の減少が認められた。超音波発声を画像化して波形解析を行ったところ、曝露マウスでは山型ならびに波型を示す波形の割合が低下していた。また、超音波発声測定中のマウスをカメラで撮影し、無動時間と反転時間を指標にマウスの運動量を調べたところ、無動時間と反転時間に変化は認められなかった。したがって、曝露が幼若マウスの運動機能を障害している可能性は低いことが分かった。マウス頸部の組織切片を作成して声帯の組織構造を調べたが、特に曝露による変化は観察されず、発声器官への異常も無いと考えられた。次に、グルタミン酸を介した神経情報伝達に異常を呈する発達障害モデルマウスを用いて超音波の発声時間を調べた結果、発達障害モデルマウスと野生型マウスとの間で発声時間の違いは認められなかった。 本研究結果より、化学物質曝露マウスと発達障害モデルマウスを用いて超音波発声の測定実験を行い、ダイオキシン曝露による超音波発声変化を捉えることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度では化学物質曝露モデルであるTCDD曝露マウスについて幼若期の超音波発声変化を捉えることに成功した。また、発達障害モデルとしてグルタミン酸を介した神経情報伝達に異常を呈するマウスを用いた超音波発声の測定実験も実施することができた。なお、TCDD曝露による超音波発声変化については論文として発表することができた。超音波測定以外にも、遺伝子やタンパク質の発現解析、神経伝達物質の濃度測定に関する実験の準備を終えており、次年度以降では曝露マウスの脳で起きている分子レベルの変化を調べる研究を推進できる態勢にあることから、本研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
超音波発声変化を引き起こすメカニズムに迫るため、TCDD曝露マウスの脳を用いて神経伝達物質の濃度測定やそれらの合成酵素の発現量変化を調べる。グルタミン酸を介した神経情報伝達に異常を呈する発達障害モデルマウスでは超音波発声変化が認められなかったため、グルタミン酸以外の神経伝達物質を中心に解析を進める。具体的には、ドーパミンやノルアドレナリンなどのモノアミンに焦点を当てて調べていく予定である。加えて、TCDD以外の化学物質についても超音波発声に与える曝露影響を調べ、発達神経毒性の影響評価における超音波発声の有用性を検討していく。これらの実験を通して、化学物質曝露と脳の発生・発達異常、そして超音波発声変化をつなぎ合わせ、発達神経毒性メカニズムの解明を目指す。
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