私は本年度、特異な反応場を構築する巨大配位子の開発に取り組み、ポリエチレングリコール(PEG)を導入したカルボン酸およびピリジン配位子の開発とその触媒反応への応用について研究を行った。 遷移金属触媒の開発において、配位子は重要な要素である。私は、高活性な触媒を実現するための新たな配位子を開発することに興味を持ち、研究を行った。今回の研究において、配位子の修飾材料としてPEGに注目した。PEGは水に可溶で、無毒、安価であり、化学的安定性が高く、容易に入手可能であるなどの利点をもつ優れた材料である。 本研究では配位子としてカルボン酸および対応するカルボキシラートを選択し、PEG鎖を導入したカルボン酸の設計と合成、及びその触媒反応への適用について検討した。その結果、設計に基づいて目的のカルボン酸を効率よく合成し、同定した。またそのカルボン酸を銅およびパラジウムを用いた酸化的触媒反応に適用すると、PEG鎖の導入によって触媒活性が改善することを明らかにした。PEGの特異な柔軟性に由来する本配位子のかさ高い構造が、触媒の失活を抑制したと考えられる。本研究の成果はSynlettに掲載された。 上記の研究と並行して、ピリジン骨格にPEG鎖を導入した配位子についても研究を行った。PEG鎖をピリジン環上に導入した配位子を合成する手法を開発し、パラジウムを触媒とした触媒反応に適用した。その結果、パラジウムを触媒としたアルコール酸化反応およびMizoroki-Heck反応において、配位子に導入されたPEG鎖が長いほど触媒活性が向上することを明らかにした。本配位子に導入されたPEG鎖は、その特異な柔軟さの為にかさ高い置換基として機能し、触媒を失活から抑制したものと考えられる。
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