研究課題/領域番号 |
17J07950
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金城 智章 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | がん細胞 / がん間質細胞 / 光遺伝学 / 細胞間相互作用 / 細胞間シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体内でがん細胞と間質細胞の分子活性を一細胞レベルで観察および操作する技術を開発し、間質細胞が、がん細胞の増殖や転移能に及ぼす影響とその分子機構を明らかにすることを目的とする。昨年度は、青色光誘導性の光遺伝学ツールCRY2のニ光子励起効率が低いことが判明したため、融合蛋白やリンカー等を改良することで、ニ光子励起で活性化しやすい新規光遺伝学ツールの開発に成功した。 本年度は、ニ光子励起に最適化したERK活性化システムを発現するトランスジェニックマウスを樹立し、生体皮膚組織におけるERK活性の制御機構を調べた。生体皮膚では、50μm以上に渡りERK活性が放射状に伝播する、Spatial Propagation of Radial ERK Activity Distribution (SPRAED)という現象が報告されている(Hiratsuka et al. eLife, 2015.)。しかし、ERK活性化と、その伝播の因果関係は未だ明らかではない。そのため、本ツールを用いて一細胞でERKを活性化させ、活性伝播の有無を検証した。結果、ERK活性は隣接細胞にのみ伝播し、SPREAD様の放射状伝播は認められなかった。光刺激でERKを活性化する細胞の個数を100細胞程度に設定しても、ERK活性の伝播は隣接する細胞に限られていた。SPREAD現象は細胞周期のS/G2M期に増加すると報告されているため、12-O-Tetradecanoylphorbol 13-acetateを用いて、皮膚基底層におけるS/G2M期の細胞を増加させた状態で、光によるERK活性化を行った。その結果、ERK活性は100 μm程度に渡り伝播した。この結果から、正常皮膚ではERK活性の伝播は抑制されているが、増殖期には伝播が促進されている可能性が示唆される。今後、更に詳細なメカニズムの解明を目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度における研究は概ね順調に進展している。昨年度の研究で、ニ光子励起で活性化可能な光遺伝学ツールの作成に成功したため、本年度は、本ツールを発現するトランスジェニックマウスを樹立し、ニ光子励起を用いて単一細胞レベルでERK活性を操作することに成功した。生体内において単一細胞レベルでシグナル伝達を効率よく操作できるツールはほとんど報告がなく、大きな進歩と考えられる。また、本研究では、同トランスジェニックマウスを用いて、生体マウス皮膚におけるERK活性の伝播は、正常の皮膚では抑制されているが、12-O-Tetradecanoylphorbol 13-acetateによって増殖を誘導した皮膚においては、光活性化後のERKの伝搬距離が大幅に延長することを明らかになった。これは、正常の皮膚が、がん化や不必要な増殖を制御するためのメカニズムの解明につながると考えられ、非常に大きな成果と考えられる。また、本研究で開発した手法は、様々な光遺伝学ツールに応用可能なものであり、今後、生体内の正常組織やがん組織において、多様な分子を非常に高い時空間解像度で操作するツールの応用が期待される。これはこれまでのツールでは実現不可能であったことであり、元々の研究課題である「がん微小環境における細胞間シグナル伝達機構の解明」のテーマにおいても、これまで発見できなかった新たな生命現象の解明という、大きな成果につながると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
生体皮膚基底層におけるERKの伝搬距離にはS/G2M期の細胞が関与している可能性が示唆されたため、さらなる分子機構の解明を目指す。また、細胞周期の他に炎症細胞もERK伝播に関わっている可能性が創傷治癒の実験などから示唆されているため、炎症細胞が皮膚に与える影響に関しても検証する。また、本ツールを用いて、当初の予定であった、がん細胞と間質細胞の相互作用についても検証を行う。間質細胞におけるERK活性化が、がん細胞の形質を変化させうるかを検証するため、平成29年度に作成したニ光子励起用の光遺伝学ツールを用いて、がん細胞または間質細胞においてERKシグナルを活性化させた際の、それぞれの細胞への影響や分子活性の変化を観察し、がんと間質の細胞相互作用を明らかにしていく。
|