がん細胞は、周囲の微小環境に存在する免疫・線維芽細胞などの間質細胞との相互作用により、増殖・転移・浸潤能を獲得することが明らかになってきている。がんと間質の相互作用には、パラクラインや細胞接着シグナルが重要と考えられているが、どの時期にどの細胞から情報が送られるかは不明な点が多く残されている。本研究では、生体内でがん細胞と間質細胞の分子活性を一細胞レベルで観察および操作する技術を開発し、がん間質細胞が、がん細胞の増殖や転移能に及ぼす影響とその分子機構を明らかにすることを目的とした。 がん細胞または間質細胞特異的に分子シグナルを操作するため、二光子顕微鏡下で青色光誘導性に二量体を形成する光遺伝学ツールであるCRY2-CIBNシステムの使用を試みたところ、CRY2はニ光子励起効率が低く、生体内での使用に耐えないことが判明した。そこでFRET-assisted photoactivation法という新たな技術を開発し、ニ光子励起で活性化しやすい新規光遺伝学ツール2paCRY2および、二光子励起依存性にERK活性化を可能にする2paRAFシステムを開発した。また、FRET-assisted photoactivation法を、LOV2ドメイン由来の光遺伝学ツールおよび適用できることを示した。更に、2paRAFを全身性に発現するトランスジェニックマウスを樹立し、生体皮膚組織におけるERK活性の制御メカニズムを調べたところ、正常皮膚においては、ERK活性の伝播は抑制されているが、増殖期においては、その伝播が促進されている可能性が示唆された。 これらの研究は、生体内における、がん細胞の増殖や間質細胞との相互細胞のメカニズム解明に寄与するものと考えられる。
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