研究課題/領域番号 |
17J07984
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 藍子 北海道大学, 医学研究院, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 高速原子間力顕微鏡 / インフルエンザウイルス / エンドサイトーシス / 細胞膜動態 |
研究実績の概要 |
ウイルス感染症は、医学が大幅に進歩した現在においても、未だなお多くの課題が残された研究分野である。ウイルスの感染の初期には、ウイルスが宿主細胞の膜変形のメカニズム(エンドサイトーシス)を巧みにハイジャックすることで細胞への侵入を果たす。近年、このプロセスには、ウイルス-受容体相互作用により発動されるシグナル伝達が寄与することが明らかになりつつあるが、ウイルスが誘発するシグナル伝達とエンドサイトーシスの膜形態変化との関連は、ほとんど明らかになっていない。 本研究では、高速原子間力顕微鏡(AFM)と蛍光バイオイメージング技術を組み合わせたハイブリッドイメージングシステムを用い、インフルエンザウイルスが宿主細胞の細胞膜へ吸着してからエンドサイトーシスにより細胞内部へと取り込まれるまでの膜形態変化・ウイルス粒子の形態と局在・分子の局在・シグナル伝達素過程を多次元同時可視化解析することで、ウイルスの侵入における宿主側の機構を解明することを目的とする。本年度は、共焦点顕微鏡一体型高速AFMを用い、ウイルス感染時におけるウイルス粒子の形態と局在の変化、宿主細胞の膜形態変化を同時に観察する系を確立した。ウイルスの細胞内在化過程はいくつかの特徴的な膜形態変化があることが明らかになり、ウイルス侵入経路の多様性を示唆する結果を得た。さらに、膜裏打ちタンパク質(クラスリン)の局在を検証したところ、インフルエンザウイルスの侵入経路にはクラスリン依存性と非依存性のエンドサイトーシスがあるという従来の知見と合致する結果を得た。現在は、クラスリン依存性でのウイルスのエンドサイトーシスでは一過的な膜隆起がウイルスを覆い取り込むという新たなウイルス侵入モデルを提唱している。 ここで確立された観察系は、今後、「ウイルス粒子-膜形態変化-分子-シグナル伝達素過程」の時空間解析を行う上で、重要な基盤となると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1.ウイルス感染時の膜形態―シグナル伝達過程同時空間観察系の確立】ウイルスが吸着してから膜変形を経てエンドサイトーシスにより取り込まれていく一連の過程をシグナル伝達過程と同時に可視化するために、細胞研究用として試作された共焦点顕微鏡一体型高速AFMを用い、蛍光標識ウイルス粒子を吸着させた細胞の観察を試みた。結果、蛍光標識ウイルスが細胞内部へと取り込まれていく過程を観察することに成功した。 【2.ウイルスの膜への吸着に惹起される一連のシグナル伝達及び膜形態変化の時空間的関係解明】ここでは、ウイルス―宿主細胞相互作用により発動される一連のシグナル伝達素過程と、ウイルスが細胞内部へと取り込まれる過程との両者の時空間的な関係を明らかにすることを目指す。本年度は、1の観察系を用い、ウイルス吸着からエンドサイトーシスの膜変形誘発に至るまでの膜動態の詳細を解析した。結果、ウイルスの取り込みに付随する膜形態変化には、少なくとも3種類の特徴的な膜形態変化があることが明らかになった。 【3.ウイルス取り込み過程における膜形態変化と力発生機構の解明】本研究項目の最終目標である「ウイルス取り込み過程における力発生機構の理解」には、膜変形に関わる裏打ちタンパク質群の局在の時空間的関係を調べることが有用である。本年度は、1のイメージングシステムを用いて、クラスリンの局在とともに蛍光標識したウイルスが細胞内部へと取り込まれていく過程を観察した。その結果、インフルエンザウイルスの侵入経路にはクラスリン依存性と非依存性のエンドサイトーシスがあるという従来の知見と合致する結果を得た。現在は、クラスリン依存性のウイルスのエンドサイトーシスでは膜が隆起しうるという新たなウイルス侵入モデルを提唱している。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に得た成果をもとに、2018年度も引き続きウイルスと宿主細胞の相互作用インターフェースの動的解析を進め、ウイルス侵入の分子メカニズムの解明へ向けた追究を進める。 【1.ウイルス感染時の膜形態―シグナル伝達過程同時空間観察系の確立】蛍光バイオイメージング装置を実装することで、シグナル伝達と膜形態変化の解析に特化したハイブリッドシステムを構築する。 【2.ウイルスの膜への吸着に惹起される一連のシグナル伝達及び膜形態変化の時空間的関係解明】ウイルス―宿主細胞相互作用により発動される一連のシグナル伝達(分子間相互作用・分子の局在変化・イオン濃度変化等)と、ウイルスが細胞内部へと取り込まれる過程とを同時空間的に解析し、両者の時空間的な関係を明らかにする。シグナル伝達の解析にはBiFCやFRET等のイメージング技術を、得られた事象の上下関係の検証には、ノックアウトやノックダウン、阻害薬等を用いる。 【3.ウイルス取り込み過程における膜形態変化と力発生機構の解明】脂質分子はシグナル伝達発動と膜の力学特性の双方に直接関与する。脂質分子の分布変化と膜形態変化を蛍光顕微鏡一体型高速AFMを用いて観察する。また、PI(4,5)P2やPI(3,4,5)P3などによってリクルートされる膜変形に関わる裏打ちタンパク質群(クラスリン、FCHo、AP2、Intersectin、EPS15など)を蛍光タグし、膜形態と脂質分子・タンパク質局在の時空間的関係を明らかにする。 クラスリン依存的エンドサイトーシスの後半にピットに集合するFCHo、Epsin、Amphiphysin、BARタンパク質等、マクロピノサイトーシス経路でのアクチン重合に始まる膜の隆起等を可視化し、かつ阻害薬やノックダウンやノックアウトによる膜形状変化を同時可視化・解析することで、ウイルス取り込み過程における力学発生機構を明らかにする。
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