今年度の研究は、主に2つの成果を得た。 1.ウィグナー関数の統一的な理解 核子の構造を調べるには、核子のパートン分布関数を知る必要がある。核子内部のパートンの進行方向の運動量だけでなく、パートンの横運動量やインパクトパラメータ依存した分布関数を知ることにより、より多彩な核子の構造を調べ、実験での新たな発見へとつなげることができる。本研究では、横運動量とインパクトパラメータの両方に依存したウィグナー関数と呼ばれる、他のパートン分布関数の母関数について着目した。また、高エネルギー領域では、グルーオンの数が増加していき、核子内部はグルーオンが主な成分となることが知られている。また、グルーオンウィグナー関数の定義は、散乱過程により異なることが知られている。本研究ではインパクトパラメータ依存したB-JIMWLK方程式を解く事により任意の散乱過程のウィグナー関数を計算することに成功した。
2.グルーオン飽和効果を取り入れたオデロンによる構造関数の性質の調査 核子のスピン構造を調べるためには、スピン偏極した核子について知る必要がある。そこで本研究では、縦偏極した核子と偏極していない核子の衝突における構造関数を調べることで、スピン構造を探った。実験において、縦偏極した粒子を衝突させると、生成されて粒子に偏りが生じることが知られており、その偏りの説明にこの構造関数が使われている。この関数は、偏極した核子に対する分布関数から求めることができ、我々は、偏極した核子の分布関数にグルーオン飽和効果を取り入れて計算し、構造関数を求めることに成功した。また実験への提案として、オープンチャーム生成過程のスピン偏極の依存性について考察した。その結果、グルーオン飽和効果により、スピン非対称性の符号は運動量が大きくなるにつれて2度変わることを確認した。これは、これまでの研究では知られていない画期的な発見である。
|