研究課題/領域番号 |
17J08090
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
呉宮 百合香 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 舞踊 / パフォーマンス / 舞台芸術 / 言語 / コンテンポラリーダンス / 身体 / 翻訳 / 発話使用 |
研究実績の概要 |
平成29年度は主に以下2点について、具体例に基づいた考察を行った。 【1.架空名使用の効果についての考察】命名は言語の基本機能だが、中でも架空名の使用は、非在性と遂行性という言語の本質にとりわけ迫った発話用法と言える。そこで、国際的に極めて評価が高い『(M)imosa/Twenty Looks or Paris is Burning at The Judson Church (M)』(2011)をひとつの成功事例として取り上げ、その効果を詳細に考察した。その際、架空名を用いた類似事例である、マチルド・モニエ&ラ・リボット『Gustavia』(2008)と、ピナ・バウシュ『Viktor』(1986)についても比較検討した。 【2.テキスト翻訳の問題についての考察】近年では、国際共同制作や自国外での公演が頻繁に行われるという状況が、身体に比べて社会文化的な問題を表現しやすい言語の使用に拍車をかけ、新たな表現の地平を切り開く要因となっている。それに伴い、舞踊の領域においても翻訳の問題が生じるようになった。言葉を用いた舞踊作品を別の言語に「翻訳」すると、その作品はどのように変容するのであろうか。元の言語と一体化している特異な身体性は、どのように翻訳・翻案されうるのであろうか。そこで、日本語版の他に英語版とフランス語版を有する森下真樹『東京コシツ』(2005/英語版 2011/フランス語版 2017)を取り上げ、上述の点を具体的に考察した。 以上の研究成果を、ストラスブール大学主催国際シンポジウム、舞踊学会、早稲田大学演劇映像学会、同大学の『文学研究科紀要』への投稿論文にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、発話用法を類型化するための理論的枠組みを事例研究に先立って構築することを計画していたが、研究を進める過程で、言語的に設定した枠組みはしばしば実情と乖離するという問題に行きあたった。そのため、 まずは事例の蓄積を優先させ、その過程の中で分類法を不断に検証していくという方針に切り替えた。 平成29年度は、命名行為と翻訳という言語特有の問題について考察を深め、言葉の導入が演者の身体感覚と観客の知覚の双方に働きかけ、舞踊体験を変化させることを具体的に明らかにした。このことは、今後の研究にも大いに有益であることが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、以下2点を優先的に進めていきたいと考えている。 【1. 作品分析とその類型化】これまでどおり個別の作品分析を積み重ねていくとともに、研究対象作品リストを整備し、分類方法の確立を試みる。 【2.歴史的背景の集中的な調査】各作品の固有性に留まらない美学的傾向を抜き出し、立証するための理論的基盤として、舞踊における発話使用の歴史的動向をいまいちど詳細に調査する。
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