研究課題/領域番号 |
17J08090
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
呉宮 百合香 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 舞踊 / パフォーマンス / 舞台芸術 / 言語 / コンテンポラリーダンス / 身体 / 翻訳 / 発話 |
研究実績の概要 |
2018年度は主に以下3点について、具体例に基づいた考察を行った。 【1. 字幕、録音音声、発話の関係についての考察】字幕、録音音声、発話という三手段を併用する伊藤郁女の舞踊作品『私は言葉を信じないので踊る』(2015)を取り上げ、発話という手段の特性を具体的に考察した。本研究の成果は、舞踊学会第70回大会にて発表した。 【2. 文学作品に想を得た舞踊作品における発話の効果についての考察】既存の文学作品を舞踊作品化する際、発話という言語を身体化する行為はどのような効果を持ちうるだろうか。発話という行為を振付、すなわちテクストに対する舞踊的なアプローチとして捉えることは可能であろうか。そこで、土方巽の同名小説に基づいた伊藤キム『病める舞姫』(2018)を取り上げ、上述の点の具体的な考察を進めている。考察にあたり、同小説に想を得た他の舞踊作品(田辺知美・川口隆夫、鈴木ユキオ等)との比較検討も行っている。本研究の成果の一部を、コート・ダジュール大学で開催される国際シンポジウムで発表予定である。 【3. 歴史的背景の集中的な調査】舞踊における発話使用の歴史的動向を整理した。なかでも1920年代から70年代に至るタンツテアターの流れと、60年代のポスト・モダンダンスに着目し、集中的な文献調査を行なった。
このほか、2018年3月にストラスブール大学で行なった研究発表の内容を論文化したものが、Editions Philippe Picquierより刊行された論文集に掲載された。また、ベルギーの演劇雑誌Alternatives theatralesに、フランス語による論文"Un panorama de la danse contemporaine au Japon [日本現代ダンスのパノラマ]"を投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、足場固めに費やした一年となった。 まず、歴史的な背景を改めて整理したことで、発話導入の背景には、ジャンル間の交流や混淆という他律的な理由のみならず、舞踊というジャンル内部における美学的転換という自律的な理由があった点を確認できたことは、収穫であった。 次に、前年度に引き続き、テマティックな作品分析を積み重ねた。2018年度は特に、字幕や録音音声、あるいはテクストといった他の言語的要素との関係に焦点を当てることで、舞台上でダンサーが言葉を発するという行為自体の特性を具体的に明らかにした。このことは、今後の研究にも大いに有益であることが見込まれる。 反省点としては、博士論文で扱う範囲の策定に至らなかった点が挙げられる。個別の作品分析に集中してしまったことが、その原因と考えられる。 これまでの研究により事例分析にはひとつ区切りがつき、要となる論点も洗い出せたため、次年度以降はより俯瞰的な視座で、研究の構造化に取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、以下2点を優先的に進めていきたいと考えている。 【1. 舞踊における「演劇性」と「パフォーマンス性」についての考察】これまでの研究から、「演劇性」と「パフォーマンス性」をめぐる議論を精査し、舞踊学の視座から再検討を加える必要を感じている。言葉を用いた作品を「演劇的」もしくは「パフォーマンス的」と形容する例は多いが、舞踊において両概念はいかなる含意を持ち、いかに使い分けられているのであろうか。演劇学の領域で活発に繰り広げられた議論に、いかほど呼応しているのであろうか。 【2. 「他者の言語」という観点の導入】理解を助けるどころか妨げるような、しかし理解をまるで前提としていないわけではない言葉の用法を、仮に「他者の言語」と名付け、他者論や翻訳理論を援用しながらその効果を明らかにすることを試みる。
以上の切り口に基づいて対象作品を整理し直すことで、博士論文で取り扱う研究範囲をより明確化することを狙いとする。
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