研究課題/領域番号 |
17J08102
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
兼松 佑典 広島市立大学, 大学院情報科学研究科医用情報科学専攻, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 原子核の量子効果 / 振動解析 / 断熱近似 / 調和振動子近似 / 量子化学 |
研究実績の概要 |
本研究課題は酵素反応の反応速度定数と速度論的同位体効果の新規解析手法の確立を目指すものであり、三年計画の初年度である本年度はその足がかりとして新規理論の定式化と実装、およびそれをテストするための小分子系への応用計算に従事した。 既存の量子化学計算手法である多成分系分子軌道(MC_MO)法と、断熱近似と調和振動子近似に基づく振動解析の接続によって新規手法(仮称:Mean-field and Adiabatic Components Convoluted under the Harmonic Approximation: MACCHA法)を開発した。MC_MO法は電子に対する分子軌道の概念を原子核や陽電子に対して応用して、電子以外の粒子の波動関数も分子軌道によって表現する手法である。粒子間の相互作用を平均場近似で取り扱うMC_MO-HF法では展開係数や軌道係数を変分的に最適化することでそれぞれの粒子の分子軌道が決定される。一方、一般的な調和振動子近似の下で行われる振動解析では、原子核の波動関数はガウス型関数で表現され、その軌道指数はヘッセ行列に基づいて一意に決定される。 私は、MC_MO-HF波動関数と断熱的な調和振動子の波動関数を極限的に包括する波動関数を設計して、それに対するエネルギー期待値を導出し、MC_MO-HFと調和振動子の両者の軌道指数を変分パラメータとして含んでいることを見出した。すなわち、新規手法では2つの従来手法の限界を超えた最適解を変分的に求められることが実証された。 実装には、これまでにMC_MO法の実装を進めてきた開発版のGaussian 09 Rev. D01を用いた。また、少分子に対して開発した手法を応用し、先行研究に照らして妥当な計算結果が得られることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題申請当初の1年目の計画を概ね完遂することができた。具体的には、新規理論を定式化し、計算プログラムに実装し、簡単な分子系に対する応用計算を行った。研究を継続する上で致命的な問題も発生しておらず、進捗は概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究課題申請時の二年次の計画に着手する予定である。具体的には、少分子水素結合系テストセットを用いた新規計算手法のベンチマークを行い、既存手法に対する優位性を検証する。また、計算速度の向上を目指して、解析的二階微分アルゴリズムの導入についても検討する。 また、上記と並行して、初年度に得られた成果について論文発表を行う予定である。
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