研究課題/領域番号 |
17J08108
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
木村 友紀 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 転写因子 / 融合 / センサ / 化学シャペロン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,生体分子を検出するセンサを効率的に作製する手法を開発することである。そこで,「検出したい化合物と結合するタンパク質」と「それを読み出すタンパク質」を融合してランダム変異を蓄積させ,リガンドとの結合に依存する形で安定性を保ち機能するセンサの創りやすさや性能評価を進めている。本年度は,複数の転写因子を融合した多入力・多出力型転写因子を作製し,このセンサに見られる特徴および論理演算の集積方法としての可能性を評価した。 L-arabinoseに応答する亢進型転写因子AraCおよびAHLに応答する亢進型転写因子LuxRを融合した2入力・2出力型転写因子ALを作製し,変異誘発PCRによってランダム変異を蓄積したライブラリを作製した。このライブラリをサンプリングまたはスクリーニングすることによって,両リガンドと結合したときのみ転写亢進を示すAND gateや,どちらかのリガンドと結合して転写亢進を示すOR gate,片方のリガンドにしか応答しないARA gateおよびAHL gateとしてそれぞれ振る舞う変異体が得られ,4種類の論理回路をひとつのタンパク質内に埋め込むことができた。特にAND gateでは,片方のリガンドとの結合がもう片方へのリガンド応答性を優位に変化させるという特徴が見られ,感度調節機能も有していることが分かった。 さらに,前述のALのN末端側に抑制型転写因子TetRを融合した3入力・3出力型転写因子TALを作製し,変異蓄積および機能選抜を4世代に渡って繰り返したところ,結合したリガンドの数に応じて転写抑制活性が高まる変異体,すなわちデジアナコンバータとして振る舞う変異体が得られた。この変異体の可溶性を調べるとリガンドと結合したときのみ可溶化することが分かり,リガンドが化学シャペロンとしてはたらいてタンパク質の濃度を変化させていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
All-in-One型センサの開発を目指して,研究開始当初はLuxRをGFPおよびセレクション用タンパク質と融合して進化工学を行なったが,AHL濃度に応じてGFP蛍光の変化する変異体は得られなかった。ところが,並列して行なっていた転写因子の融合型センサではさまざまな論理回路を1つのORF内に集積することができ,センサ開発の基本フォーマットとして有効であることを見出した。本年度は,この研究内容および修士2年の学生とともに行なった研究内容で特許申請することができ,さらには原著論文として近々投稿する予定である。「タンパク質の直列融合,そしてランダム変異蓄積」というセンサ開発法は単純でありながら歩留まりが良く,次年度に計画している代謝物センサや生理活性分子センサの開発を加速させると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に確立した高速かつ汎用的なセンサ開発手法を用いて,さまざまな生体分子を検出するセンサの開発に取り組む。具体的には,代謝工学で重要視されているMEP経路やMEV経路の代謝中間体や,生理学で着目されているストレス応答分子の検出である。さらに,得られるセンサの変異解析や物性評価を通じ,本手法で獲得するセンサの特徴づけを進め,センサの合理的な設計指針の抽出を試みる。 また,当初は1つのORF内に結合ドメインと出力ドメインを封じ込めた,All-in-One型センサの開発を予定していたが,申請者の試した限りではAll-in-One型センサとして振る舞う変異体は未だ獲得できていない。本年度の研究に鑑みると,転写因子との融合は出力強度を増幅できたり,獲得したセンサの感度を調節できたりするといった利点があり,転写因子ならではの付加価値をセンサに付与できる。これを考慮し,少なくとも次年度は転写因子を機能読み出し用のタンパク質として採用したセンサ開発および特徴付けを継続して行う予定である。
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