研究課題/領域番号 |
17J08120
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
下川 航平 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | マグネシウム蓄電池 / 高エネルギー密度 / 中温作動 / スピネル型酸化物 / 溶媒和イオン液体 |
研究実績の概要 |
本研究では,高エネルギー密度と高安全性を両立する,中温(80-200℃程度)作動型Mg蓄電池の実現を大きな目標として掲げ,それに向けたスピネル型正極材料および電解液の開発に取り組んでいる. 電解液の研究に関して本年度は主に,Mg(TFSA)2 (TFSA: bistrifluoromethanesulfonilamide)と MgCl2の2つの塩をTriglyme (G3) 溶媒中に溶解させた電解液における,高濃度化による Mg イオンの溶媒和構造の変化と,それに伴うMg 電析・溶解挙動の向上のメカニズム解明に取り組んだ.ラマン分光の結果から,高濃度Mg(TFSA)2-MgCl2/G3溶液中では,Mg(TFSA)2とMgCl2がそれぞれのアニオンを交換するような反応を起こし,さらにMgとG3が1:1で溶媒和することで,TFSA-Mg(G3)-Clと表されるような溶媒和構造となることが示唆された.またこのような希薄溶液とは異なる溶媒和構造が実現されることで,希薄溶液では問題となるMg金属負極の不動態化が抑制されることを明らかにした. 正極の研究に関して本年度は主に,従来のスピネル型酸化物正極の問題点である顕著なサイクル劣化を抑制するための,組成の設計指針の確立を試みた.特に,Mgの挿入に伴う「スピネル→岩塩」相転移では,スピネル型構造酸化物中の4面体サイト(8a)を占めるカチオンの8面体サイト(16c)への移動を伴うことから,構造変化の可逆性の向上のためには4面体サイトを占めているカチオンの配位選好性を考慮する必要があると考え,これについて調査した.具体的には,4面体配位を好むZnをベースとする組成では充放電時の構造変化の可逆性が向上することを示し,さらに格子定数を適切に制御することで,従来の問題点であるサイクル劣化を優位に抑制できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電解液と正極材料の両方の研究において,おおむね順調に研究が進展している. 電解液の研究については,特にMg(TFSA)2 (TFSA: bistrifluoromethanesulfonilamide)とMgCl2の2種の塩をTriglyme (G3) 中に溶解させた電解液における,高濃度化によるMgイオンの溶媒和構造の変化と,Mg電析・溶解挙動との相関についての理解が深まり,中温作動型Mg蓄電池用の電解液の設計指針を得ることができた.この電解液研究の成果をまとめた論文は,Journal of Physical Chemistry Letters誌に掲載された. また正極材料の研究については,これまでの問題点であった乏しいサイクル特性を向上させる方策として,スピネル型酸化物中の4面体位置を占めるカチオンの配位選好性が重要であることを突き止めた.具体的には,8面体配位よりも4面体配位を特異的に好むZnを利用することにより,充放電時の構造変化の可逆性が向上する示すことに成功した.この研究成果をまとめた論文は,Journal of Materials Chemistry A誌に掲載受理された. このように,高エネルギー密度の中温作動型Mg蓄電池の実現に向けて,適宜論文にまとめながら,着実に研究を推進することができている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では,電解液および正極の両面において,これまでの研究で得られた設計指針を元に更なる性能の向上に取り組むと共に,負極・電解液・正極の相性も考慮しながら,本研究の大きな目的である「中温作動型高エネルギー密度Mg蓄電池のプロトタイプ構築」を目指して研究を推進する.電解液について,これまでの研究で扱ってきた組成では,高濃度の塩化物イオンを含むため,その腐食性や耐酸化性の観点において,まだ課題が残る.これらの課題を解決できる新規組成を考案し,Mg金属負極とスピネル型正極材料の両方と適合性のある電解液の開発に取り組む.正極については,依然として乏しいサイクル特性の向上を,最も重要な課題として取り上げ,その解決を目指す.さらに,電位や容量というエネルギー密度に直結する特性や,元素戦略的な側面も考慮しながら,これまでのスピネル型酸化物の研究で得た知見に基づいて新規材料を見つけ出し,適切な電解液と組み合わせることでそのプロトタイプを作製して,フルセルMg蓄電池の作動の実証を試みる.
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