研究課題/領域番号 |
17J08127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷田部 孝文 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | Layered Double Hydroxide / ヒドロアシル化 / アルキン / 遷移金属フリー |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代において必要不可欠であるものの未だ発展途上にある、固体触媒による環境調和型液相有機合成の普及のため、「高機能固体触媒の精密設計及び素反応制御を基盤とした高難度環境調和型分子変換の開発」を研究課題と定めた。(1) 固体触媒の精密制御、(2) 素反応制御及び反応機構解明、(3) ファインケミカル及びバルクケミカルにおける高難度精密分子変換反応の開発、といった3つのパートを連関させ、上記課題の達成を目指している。 第二年度である平成30年度においては、「LDH触媒による末端アルキンの位置選択的形式的ヒドロアシル化反応」を確立した。 ヒドロアシル化反応とは、アルキンやアルケンを用いて、アルデヒドを原子効率100%でケトンへ変換する有用な反応である。従来のRh触媒などを用いるヒドロアシル化反応では、高価な金属種の使用、脱カルボニル反応の併発、金属アシル種の挿入反応時の位置選択性制御などが課題であった。本研究では、従来の反応経路とは大きく異なる、末端アルキンの求核付加・プロトトロピーを経る反応経路を開拓することで、遷移金属フリーな末端アルキンの位置選択的形式的ヒドロアシル化反応を行った。上記反応経路に対する触媒作用の発現が期待できる材料として、イオン性・塩基性を有し、構成金属比や層間アニオン種のチューニングが可能なLayered Double Hydroxide (LDH) に着目した。実際に、他の固体触媒では目的のヒドロアシル化反応が全く進行しなかったのに対し、Mg3Al-CO3 LDHでは高収率で進行することを見出した。種々の検討から、LDHのイオン性・塩基性によるアルキニル求核種形成が本反応を進行させる鍵であることが示唆された。本研究成果により、固体触媒特有の触媒系である固体自体のバルク・表面の化学的特性が、新しい高難度反応開発に有効なことを示せたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要で記した、末端アルキンの遷移金属フリーな位置選択的形式的ヒドロアシル化反応は、固体触媒特有の触媒系を有するLDHを用いることで達成できた反応である。従来の有機反応は分子性の均一系触媒においてほぼすべて開発されているが、本研究成果は従来の反応開発とは異なり、固体自体のバルク・表面の化学的特性を利用して反応開発に成功した。均一系触媒にはない固体触媒の特性が新しい有機合成に効果的であることを示すことができたため、固体触媒による液相有機合成の普及に対して進展を見せたと考えている。また、研究実績の概要で記した個別の3つのパートにおいても、担体としても使用可能な種々の固体材料の調製手法・解析手法をある程度確立できた点、反応機構の解明を経て固体材料と有機分子の新しい相互作用を見出した点、本研究成果を経てアルキンの求核付加を経る他の高難度分子変換への足掛かりをつかんだ点など、予想以上の進展があった。以上より、総合的な観点から当初の計画以上に進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
さらなる固体触媒による環境調和型液相有機合成の普及には、固体触媒にしか存在しない特性を利用して、より影響力のある高難度分子変換を行う必要がある。その一例として、当初の計画にあった脱水素型カップリングかつ選択性逆転を伴う反応であり、分子状酸素を酸化剤とした環境調和型反応である、第三級アミンの特異な選択的アルキニル化反応を行う予定である。また、これまでに得られた知見を総合し、バルクケミカルへの応用も指向して、酸素化反応や水素分子を同時に生成するアクセプターレス脱水素反応など、さらに反応の幅を広げて反応開発・触媒開発を進めていく。
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