研究課題/領域番号 |
17J08140
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮田 翔平 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 不具合検知・診断 / モデル予測制御 / シミュレーション / 熱源システム / 空調システム / 低炭素制御 / 畳み込みニューラルネットワーク / 動的排出係数 |
研究実績の概要 |
本研究は空調システム、特に冷水や温水を生産・搬送する熱源システムの高効率・低炭素な運用手法の開発を目的としている。本年度は、不具合検知・診断の検討を行うとともに、最適制御についても研究を進めた。 不具合検知・診断に関しては、1. シミュレーションによる不具合データの算出、2. 畳み込みニューラルネットワークによる不具合データの特徴の抽出、3. 学習済み畳み込みニューラルネットワークによる実データの診断、という手法の有効性を確認した。 その結果、時期に応じて診断された不具合が変化することが確認された。これは、システムがある不具合を持っていた場合、運転負荷や外気条件といった運転条件によってその不具合の特徴がデータに発現または潜伏することを意味する。年間を通して常に変動する運転条件に対して不具合検知・診断を行う必要があることが示され、様々な運転条件に対する特徴抽出が可能な提案手法の有効性が確認された。 最適制御に関しては、二酸化炭素排出量を最小化する低炭素制御の検討を行った。本研究員は動的な排出係数と詳細なシステムシミュレーションによる制約条件に注目し、シミュレーションによる検討を行った。 まず、公開されている再生可能エネルギーの発電量や各発電所の発電量から、動的な(1時間ごとの)二酸化炭素排出係数 [kg-CO2/kWh]を推定した。この排出係数と負荷を入力として、蓄熱槽を有する熱源システムを対象としてモデル予測制御による最適制御を行った。この時、冷凍機冷水入口温度が規定より低下しない、冷水供給温度が規定より上昇しない、の2点を制約条件として与えた。 その結果、従来の制御と比較して最大約30%もの二酸化炭素排出量の削減が算出された。計算結果を詳細に分析した結果、排出係数が小さい時間帯に蓄熱され、昼間であっても排出係数が高く、残蓄熱量が十分な場合は放熱のみが行われたことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初より熱源システムの高効率運用の手法開発を目的とし、その具体的な取り組みとして不具合検知・診断と最適制御を大きな目的として挙げていた。現在までに両者について検討を進められており、その提案手法の有効性も得られている。 そのため、研究は順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、不具合検知・診断技術をさらに深めると同時に、最適制御についての検討を進める。 不具合検知・診断については共同研究として提案手法を現在運用されている熱源システムに実装する取り組みが始まったため、それに向けた一層の技術開発を行う。実装にあたり、技術者と議論を重ねる機会があるため、これまで得られなかった本手法の課題を明らかにするとともに、提案手法をより適用性の高い手法へと発展させる予定である。 最適制御についてはモデル予測制御を用いた二酸化炭素排出量最小化制御について検討を進める。提案するモデル予測制御は、予測負荷を入力値として現在の冷凍機の発停を決めるものだが、これまで検討を行ってきたケースでは予測負荷と実際の負荷を同一の値としていた。しかし、実運用においては実際の負荷は予測から外れるため、予測負荷が実際の負荷と異なった場合でも不具合なく制御がなされるよう詳細に検討する予定である。申請者は詳細なシステムシミュレーションを構築し、これをモデル予測制御の最適化器内部で利用するため、最適化における制約条件を詳細に与えることができる。なお、シミュレーションを詳細にすると計算時間を要するため、より適切な制約条件を考案する必要がある。 長期的な視点から本研究の発展性を考えた場合、今後の研究の推進方策として現在は熱源システムのみを対象としているため、不具合検知・診断や最適制御の適用範囲を空気側システムも含んだ空調システム全体に拡張することが挙げられる。さらに、空調システムをエネルギーシステムの一部とみなし、再生可能エネルギーによる電力システムの需給バランスも考慮した空調システムの最適制御についても検討を発展させることも考えられる。
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