研究課題/領域番号 |
17J08167
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
粂 汐里 法政大学, 野上記念法政大学能楽研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 説経 / 古浄瑠璃 / 絵画資料 / 絵巻 / 絵入り写本 / 版本 / 盲僧琵琶 |
研究実績の概要 |
本研究はこれまで研究の対象外であった資料を調査・活用することで、説経・古浄瑠璃の通史的変遷を、19世紀を含めた「成立期」「受容期」「展開期」の三期に捉え直すことを目的とする。初年度は1「説経・古浄瑠璃を題材とした絵画資料」(「成立期」「受容期」に区分)と、2「九州地方の語り物芸能資料」(「展開期」に区分)の調査を重点的に行った。 1に関しては、作成した現存作品リストを元に、語り物関連資料の悉皆調査を行った。特に大英図書館やフランス国立図書館等の海外の機関にて、未紹介資料の書誌調査・撮影を行うことができたのは大きな収穫であった。国内では、これまで紹介されていなかった愛媛県立図書館伊予史談会文庫蔵『村松ものがたり』1冊の調査を行った。分析の結果、この本は大蔵官僚であった勝田主計所蔵の豪華本から、本文のみを写したものとわかり、その特徴と意義について、2018年3月10日、名古屋大学における国際会議で一部を報告した。未調査の資料もあるが、今年度の一連の研究活動で、絵巻・絵入り写本といった、説経・古浄瑠璃の絵画資料が作られるプロセスについては大凡の結論を得ることができた。 2に関しては、2017年7月に発足した盲僧琵琶研究に参加することがかない、そこに参加する研究者の方々から多くの情報提供や助言を得ることができた。この研究会では、熊本県玉名郡南関町で活動した盲僧の琵琶語り・山鹿良之(1901―1996)の晩年の語りの録音資料(成城大学所蔵予定)に解説を付すことを目的としている。担当する録音資料に関わる資料を収集するため、10月には、福岡県立図書館に所蔵される盲僧の語り物台本群を調査した。今回は42冊のなかから、説経・古浄瑠璃系の語り台本の4冊を撮影したが、今後も撮影を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1の「説経・古浄瑠璃を題材とした絵画資料」の海外調査については、急遽アイルランドチェスタービーティーライブラリィでの国際シンポジウムと調査への参加を許され、その日程に合わせる形で調査を組んだため、当初の予定より1年前倒しになった。その点、絵画資料の悉皆調査がより早く進展し、全体像の把握が可能になった。一方で、初年度目指していた2に関する九州地方の芸能関連資料のリスト作成は、予算が足りずに九州地方での調査が十分に行えなかったため、来年度に持ち越しとなった。一方で、九州を活動拠点とする修験者たちによって伝えられた貴重な語り物資料を確認するなど予期せぬ発見もあった。今後はこの資料の成立背景を明らかにすべく、福岡県、宮崎県に絞って調査を進めていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
「成立期」にあたる草紙屋におけるテキスト制作の実態を解明するため、近世初期に夥しい数が創作された新作謡本との関係を解明したい。 「成立期」「受容期」にあたる絵巻、絵入り写本の調査が一段落したため、次は「受容期」の前段階にあたる語り物の絵入り版本について調査を開始する。版本の挿絵の成立背景については初年度より調査をすすめていたが、全体像を把握するため、次年度は現存作品リストを作成した上で、最も重要と思われるテキストから調査を開始する。 「展開期」にあたる九州地方の語り物芸能資料については、まず九州地方の芸能関連資料のリスト作成を急ぎ、福岡県内・宮崎県内の調査を重点的に行う。
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