研究課題/領域番号 |
17J08167
|
研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
粂 汐里 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
キーワード | 古浄瑠璃 / 新作謡本 / 盲僧琵琶 |
研究実績の概要 |
今年度は、次の【1】【2】を重点的に行った。 【1】近世初期に創作された新作謡本との関係解明(「成立期」に区分) 近世初期に夥しい数が作られた新作謡本の一つである『甘楽太夫』と、古浄瑠璃『こ大ぶ』との前後関係を整理し、謡曲を題材とする古浄瑠璃作品の成立背景を分析した。 まず謡本を元にした古浄瑠璃の台本(古浄瑠璃正本)の数を確認するため、寛永期(1624~1643)に出版された古浄瑠璃正本の中から、謡本の摂取が認められる作品を抽出した。該当する作品の摂取方法には、一つは謡本の本文を一部引用する【引用型】、いま一つは謡本と全体の構想を同じくする【題材型】の2パターンがある。本研究では【引用型】が生まれる過程に謡本、舞の本、お伽草子などの大量のテキストを所有し、それらを用いて古浄瑠璃正本を作る草子屋の関与を想定し、その証左となる資料(能楽研究所所蔵「古活字玉屋本表紙裏張」慶長19年〈1624〉頃)の調査、分析を通して、【引用型】の古浄瑠璃正本の成立背景を考察した。 【2】九州地方の語り物芸能資料の調査(「展開期」に区分) 2017年7月より学習院大学の兵藤裕己氏主催の盲僧琵琶研究会に参加し、熊本県玉名郡南関町で活動した盲僧の琵琶語り・山鹿良之(1901―1996)の録音資料に解題を付す作業を行っている。今年度は、兵藤氏から貸与された「鞍馬下り」「卒塔婆引き」の2点の録音資料の解題執筆作業に取り組んだ。「鞍馬下り」は山鹿の語りを省略した内容の台本が福岡県立図書館に残されており、2017年10月11日の調査で撮影を終えていたが、今年度はこの福岡県立図書館本と山鹿の語りとを比較、分析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【2】の九州地方の語り物芸能資料の調査としては、上記の盲僧琵琶の語り台本の調査と並行して、宮崎県内に複数伝わる『常盤問答』についての資料収集も行った。『常盤問答』とは源義経の母である常盤御前が鞍馬山に登り、鞍馬寺の東光阿闍梨と仏法問答するという幸若舞曲の演目の一つで、盲僧琵琶語りや奥浄瑠璃としても語られていた。しかし、こうした従来知られてきた『常盤問答』とは全く別の内容の伝本があり(深谷大「川越松子所蔵〔常盤問答〕―翻刻―」『岩佐又兵衛風絵巻群と古浄瑠璃』ぺりかん社、2011年)、近年、他にも宮崎県内に2点あることが確認されている(大谷津早苗「宮崎県山間部に伝わる「常盤問答」―2本の新出資料」『学苑』905、2016年3月)。 この異本系統ともいうべき伝本について、昨年度、広島県内にて未紹介の2点の伝本を発見し、その後も調査を進めてきたが、新たに宮崎県内に2点の現存を確認することが出来た。原本はいまも個人蔵のため、これについては、許可が取れ次第、閲覧する予定である。 現段階までで、本文を確認できた4本の異本系統の比較検討を終え、その特徴について、2018年5月26日の「語り物の絵巻・絵本」研究会(於国文学研究資料館)にて「異本系「常盤問答」をめぐって」と題し、研究発表を行った。今後も調査を継続し、2019年度の中世文学会で発表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
【2】九州地方の語り物芸能資料の調査としては、異本系統の『常盤問答』の成立背景について調査を進めたい。来年度は、宮崎県内の確認できた伝本の悉皆調査に精力的に取り組みつつ、重要な伝本に関しては随時、翻刻、資料紹介を行う。 また、初年度に重点的に行っていた「説経・古浄瑠璃を題材とした絵画資料」(「成立期」「受容期」に区分)に関しては、2017年度の一連の研究活動で、絵巻・絵入り写本といった、説経・古浄瑠璃の絵画資料が作られるプロセスについて大凡の結論を得ることができた。2019年度はこれまでの研究成果を論文にまとめる予定である。その後は、未調査のままであった逸翁美術館蔵「一若丸絵巻」の原本調査に取り組み、本調査をふまえ、別稿にて初期の語り物作品の一つである『村松物語』についての諸本と新出資料について資料紹介を行う。
|
備考 |
海の見える杜美術館編『2019年春期特別展 幸若舞曲と絵画-武将が愛した英雄たち』(2019年)の作品解説(「保元・平治物語絵巻」「銀地烏帽子折物語絵巻屏風」)とコラム2(「牛若の母、常盤をめぐる語り物」)を執筆。
|