研究課題/領域番号 |
17J08174
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
泉 早苗 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | グリコシド / 有機ホウ素触媒 / 位置選択的 / cis選択的 / アルキル化反応 |
研究実績の概要 |
本研究では、活性化基を用いない触媒的なグリコシドの新規合成法の開発を通して、位置及び立体選択的なオリゴ糖の化学合成法の確立を目指している。 これまでにボロン酸が糖の二つの水酸基を認識することを利用した、ボロン酸又はボリン酸触媒によるグリコシル化反応が報告されている。その報告例においては、糖供与体をあらかじめ脱離基によって活性化しておく必要がある。脱離基を含む糖供与体は、比較的過酷な条件下活性化され、複雑な中高分子を合成する際には、その条件が適さない場合も生じる。申請者は、有機ホウ素触媒や反応条件を工夫することで、糖供与体に脱離基を必要としない反応が実現できると考えた。
実際に、フェニルボロン酸の修飾をはじめとした触媒合成を行った。合成した触媒は、1,2-ジオールを有する3,4,6-tri-O-benzyl-D-glucopyranoseを糖供与体、メタノールを糖受容体とした反応により、活性を評価した。その結果、フェロセニウムボロン酸触媒が最も高い収率で望みのグリコシドを与えることを見出したが、立体選択性に改善の余地があった。メカニズムの解析を通して、オキソカルベニウムカチオン中間体を経ることが、本反応の立体選択性を低下させている原因であることを明らかにした。
そこで、戦略を大きく変更し、オキソカルベニウムカチオン中間体を経ることのない、アノマー位O-アルキル化反応による立体選択的なグリコシドの合成法に着目した。有機ホウ素触媒によって、3,4,6-tri-O-benzyl-D-glucopyranoseのアノマー位、アキシアル位酸素の求核性を高め、求電子剤としてトリフラート化された糖とのO-アルキル化反応を試みたところ、完全な立体選択性で1,2-cis-グリコシドを合成することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた触媒のスクリーニングを行ったところ、得られたグリコシドの立体選択性に大きな課題があった。触媒のスクリーニングと同時に、反応条件の精査やメカニズムの解析も行ったが、改善の兆しは見られなかった。スクリーニングでは、ボロン酸触媒によって活性化された糖に対して、アルコールを求核剤として用いる、酸性条件下での反応を行っており、系中で生じたオキソカルベニウムカチオン中間体が選択性低下の大きな原因であると考えられた。
そこで、戦略を大きく変更し、オキソカルベニウムカチオン中間体を経ることのない、アノマー位O-アルキル化反応による立体選択的なグリコシドの合成法に着目した。ボロン酸触媒によって活性化された3,4,6-tri-O-benzyl-D-glucopyranoseと、求電子剤としてトリフラート化された糖とのO-アルキル化反応を試みたところ、完全な立体選択性で1,2-cis-グリコシドを合成することに成功した。この反応では、3,4,6-tri-O-benzyl-D-glucopyranoseの2位がアルキル化された副生成物も得られることが明らかとなった。位置選択性の改善を目指し、種々の有機ホウ素触媒を検討した結果、ボリン酸触媒が良い結果を与えることを見出した。
平成29年度の計画において、触媒合成とその評価を主として挙げていたが、現在、最適な触媒及び反応条件がすでに定まっており、平成30年度の計画として予定されていた「最適化条件を1,2-ジオールを有する種々の糖に適用する」ことも終えたところである。すなわち、平成29年度の計画内容だけでなく、1年先に挙げていた計画の大部分までも平成29年度内に達成したことになる。戦略に変更はあったものの、当初の目的に変更はなく、計画以上の進展をもって果たされている。
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今後の研究の推進方策 |
3,4,6-tri-O-benzyl-D-glucopyranoseで最適化した条件は、1,2-ジオールを有する種々の糖に適用でき、アノマー位O-アルキル化反応が円滑に進行することを確認した。種々の保護基を有するグルコースを用いた場合でもtrans体は得られず、完全なcis選択性にて目的とするグリコシドを得ることに成功している。特筆すべき点は、6位の一級水酸基が無保護の3,4-di-O-benzyl-D-glucopyranoseを本反応に付しても、6位の水酸基はトリフラートと反応せず、望みの1,2-cis-グリコシドのみが得られたことである。
今後、トリフラート化された糖の基質適用範囲を検討する予定である。この検討が終わり次第、連続的な反応によってオリゴ糖を得る方法を確立する。まず、基質適用範囲で得られた二糖に対し、さらにもう一つの糖を反応させることで、三糖の合成に挑戦する。三糖が合成できれば、さらに糖を伸長していくことも視野に入れている。具体的には、3,4-di-O-benzyl-D-glucopyranoseを出発原料とし、6位の水酸基は無保護のままで、トリフラート化された糖と反応させる。その後、得られた二糖の6位の水酸基をトリフラート化した後に、再度、3,4-di-O-benzyl-D-glucopyranoseとの反応を繰り返すことで、α-1,6-グリコシド結合を有する三糖が効率的に得られるはずである。本反応は、既知法と比較し、有機ホウ素触媒が糖の二つの水酸基を認識する性質を利用しているため、完全な保護を必要としないことが特徴である。このように、無保護の水酸基存在下でも、望みの1,2-cis-α-グリコシドが得られることを応用し、様々な種類のオリゴ糖合成へと展開していく予定である。
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