研究課題/領域番号 |
17J08206
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小笠原 史彦 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | ABCA1 / HDL |
研究実績の概要 |
ABCA1はHDL産生に必須な脂質輸送体である。過去の研究から、ABCA1の持つ細胞外ドメインはHDL産生に重要な役割を果たすことが示唆されているが、その機構はわかっていない。そこで本研究では、ABCA1が輸送した脂質を一時的に自身の細胞外ドメインに蓄積し、それを一度にアクセプターに受け渡すことでHDLを産生する、という仮説を証明する。 これまでの研究から、培養細胞系においてABCA1発現細胞をトリプシン処理すると培地中に脂質が放出されることがわかっている。そこで、その脂質放出とABCA1細胞外ドメイン切断の関係を示すため、細胞外ドメインにthrombin認識配列を挿入したABCA1を作製し、細胞外ドメインを特異的に切断できる系を確立した。しかし、切断ヶ所や速度の問題からトリプシン処理のような脂質放出は見られなかった。そこで、培地中に放出された細胞外ドメインを直接解析するため、細胞外ドメインにHAタグを挿入したABCA1を用いてトリプシン処理を行ったところ、培地中への脂質と細胞外ドメインの放出は同様な時間依存性を示した。この結果から、ABCA1細胞外ドメインに脂質が蓄積していることが示唆された。 また、HDL産生をさらに詳細に解析するためABCA1発現細胞を用いたセミインタクト細胞系を確立した。この実験系では、細菌毒素であるストレプトリジンO(SLO)によって細胞膜に孔を開け、中身を入れ替えた状態の細胞を用いて解析を行う。予想外なことに、ABCA1発現細胞ではSLOによる孔形成が起こらないことがわかったが、この現象はABCA1が細胞膜コレステロールの状態を変化させたために起きた可能性が考えられた。そこで、SLO処理前にコレステロールを細胞膜に添加したところABCA1発現細胞にも孔を開けられるようになった。これにより翌年度からの解析の準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ABCA1細胞外ドメインの脂質蓄積の解析において、当初の計画とは異なる形ではあるが、ABCA1細胞外ドメイン切断と脂質放出の関係を示すことができた。また、セミインタクト細胞系確立の際に発見したABCA1発現細胞においてSLO孔形成が起こらないという現象は予想外であったが、その解析の過程においてABCA1が細胞膜コレステロールの状態を変化させていることを見出し、国内外の学会で報告するまでに至っている。当初の計画に加えてこの現象の解析をさらに進めていくことによって、ABCA1によるHDL産生メカニズムの解明がより一層進むことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、セミインタクト細胞系を用いたHDL産生過程の解析を行う。具体的には、細胞内のATP濃度や相互作用タンパクの有無によるHDL産生の変化を調べる。また、孔形成毒素SLOを用いてABCA1のコレステロール輸送活性を評価する。さらに、部分精製したABCA1細胞外ドメインの脂質との相互作用や複合体形成を試みる。
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