本年度は最初に「ポストヒューマン」あるいは「ポストヒューマニズム」という観点からのゾンビを研究し、これを口頭発表「ポストヒューマン的身体としてのゾンビ」(2018年、7月表象文化論学会)にまとめたものを、さらに深化させ、論文執筆を行った。そこで重要な先行研究として、サラ・ラウロとカレン・エンブリ (2013)による「ゾンビ・マニフェスト」とロージ・ブライドッティの『ポストヒューマン:新しい人文学に向けて』に注目した。1990年代のポストヒューマニズムの言説においては心身二元論的な発想に囚われることが多かったが、現在では、そのような議論は、フェミニズム、新唯物論などに展開され、さらには、人新世の議論にも波及している。一方、ラウロらの研究では、ゾンビの身体性の変遷に関する歴史と、現代におけるポストヒューマニズムとを引きつけて論じている。これらの論文を踏まえて、次の研究ではさらにゾンビ映画の歴史を遡った。まず、最初に映画にゾンビが登場したとされる1931年の『ホワイトゾンビ』およびその原作である紀行文『魔法の島』(ウィリアム・シーブルック)と、それ以前に流行し、アフリカやカリブ諸島を舞台にした「エクスプロイテーション」映画などの娯楽作品との関係を考察した。この研究成果は、論文「『ホワイトゾンビ』におけるゾンビの位置付け――植民地主義と古典ホラーの文脈から――」(『コンタクト・ゾーン』、2019年第11号に掲載予定)で論じた。また、これらの研究に関わる書籍であるブライドッティの『ポストヒューマン』の翻訳作業では「はじめに」「第1、3章」を主に担当し、またマキシム・クロンブ『ゾンビの小哲学』では全体の翻訳と、訳者解説を担当した。
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