研究実績の概要 |
本研究は、適応免疫系において中心的な役割を担うT細胞の胸腺における正の選択機構を、T細胞の選択を決定する根源的な機構である抗原提示の観点から解明することを目的としたものである。正の選択には胸腺皮質上皮細胞(cTEC)のMHCクラスI(MHC-I)上に提示されているペプチドと、未熟T細胞のTCRとの相互作用が重要とされているが、詳細な分子機構は不明である。胸腺プロテアソームが作り出すペプチドレパトアを解析しT細胞の正の選択機構が明らかになることで、免疫不全や自己免疫疾患の新たな切り口からの治療に繋がることが期待される。 マウス胸腺からcTECを精製し、その細胞表面に発現するMHC-I上に提示されているペプチドレパトアを質量分析により解析した。cTECは1匹のマウスから10,000個ほどしか得ることができないため、これまではMHCクラスIペプチドレパトアを解析するために必要な数を用意することは困難であった。しかし、飛躍的に機能の向上した高感度のOrbitrap型質量分析装置を用いることでcTEC由来のMHC-Iペプチドレパトアを解析することが可能になった。野生型マウスと胸腺プロテアソーム欠損マウスそれぞれのcTEC由来MHC-Iペプチドレパトアの解析に成功し、その特徴と差異が明らかになった。 正の選択に関わるペプチドの同定のためには、胸腺プロテアソーム特異的に産生されるペプチドについて、in vivoで実際に正の選択を誘導できるか否か検証する必要がある。未熟T細胞の成熟には胸腺の微小環境が必須であるため、胸腺の器官培養系であるFetal Thymic Organ Culture(FTOC)の構築を行った。同定された胸腺プロテアソーム特異的に産生されるペプチドのうち、FTOCで効率的に正の選択を誘導するものについては、マウス個体レベルでさらに正の選択の誘導能を評価していく予定である。
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