本申請では、ErbB1/ErbB3のヘテロ二量体化に着目した新規抗がん活性ペプチドの創製を提案した。以前、ErbB1の二量体化アームをミミックした環状ペプチド(1)がErbB1の自己リン酸化を阻害すること、また、細胞内に取り込まれることを明らかにしている。本年度は、①ErbB1ホモ二量体を標的とした二価結合型リガンドの創製、また、②ErbB1陽性がん細胞選択的な細胞内送達に着手した。 細胞膜上に発現しているErbBsの二量体構造に対して、適切な受容体間の距離を保つリンカー構造を有するリガンドが阻害剤として機能するかどうかはこれまで明らかにされていなかった。そこで、peptide 1を剛直かつ長鎖なポリプロリンリンカーで架橋した二価結合型リガンドを設計・合成した。ErbB1自己リン酸化阻害活性を評価した結果、プロリン15残基から成るリンカー構造を有する場合に阻害活性が上昇した。この結果より、適切なリンカー構造を有する二価結合型リガンドはがん細胞膜上のErbBsの二量体構造を標的とした阻害剤になりうることが示された。 また、siRNAによるErbB1のノックダウン実験により、peptide 1の細胞内移行量とErbB1の発現レベルの間に正の相関関係が見られたことから、ErbB1に対する選択性が確認できた。アポトーシス誘導ドメイン(PAD)ペプチドは細胞膜透過性とがん細胞特異性の欠如によりその使用に限界があった。そこで、PADペプチドとpeptide 1とをプロテアーゼで切れるリンカーを介して連結させた分子を設計した。ErbB1陽性がん細胞A549を用いて、細胞生存率を評価した結果、有意な増殖抑制作用が確認された。一方、PADペプチド単独では、影響は見られなかった。これらの結果から、peptide 1はErbB1陽性がん細胞選択的な細胞内送達分子として有用なツールであると考えられる。
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