研究課題/領域番号 |
17J08324
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅原 彬子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | パラメトリックスピーカ / 擬音 / フォノニック結晶 / 音源信号の位相反転駆動 / 現場測定 / 垂直入射吸音率 |
研究実績の概要 |
2016年度、パラメトリックスピーカを用いて材料の音響特性を精度よく現場測定する手法に関する実験的検討を進め、周壁からの不要な反射音を回避することによる測定精度の向上を確認し、結果を2017年9月、建築学会で口頭発表した。これまでの検討より、音源信号として用いる高音圧な超音波による非線形挙動が、音響特性の計測時に測定誤差の要因となることが示された。そこで、2017年度は超音波の非線形挙動を把握し、可聴帯域の計測に際してその影響を回避する方法を考案するため実験的検討を行った。 パラメトリックスピーカを用いて可聴音を測定する際、同時に受音される高音圧な超音波がマイクロホンの振動面で非線形的な局所歪を引き起こす擬音という問題が生じる。可聴音の音圧を十分に確保するため伝搬経路上では超音波の音圧を十分確保し、かつ受音点付近では擬音に起因する測定誤差を回避するため超音波の音圧を低減するという状況を作り出すため、①フォノニック結晶(Ji他)、②音源信号の位相反転駆動(Kamakura他)の2つの手法を試みた。 まず①②の手法を用いて無響室でグラスウールの垂直吸音率の測定を行い、擬音の低減による測定精度の改善を確認し、その内容について、2017年8月に国際会議INTERNOISE2018で、9月には音響学会で口頭発表を行った。 続いて、パラメトリックスピーカおよび擬音の低減手法を現場測定に応用するため、一般居室にグラスウールを持ち込み、垂直入射吸音率を測定した。①②の手法を用いることで擬音が低減され、測定精度が向上したことを確認した。ここまでの内容について、騒音振動研究会にて口頭発表を行った。 本年度の検討を通し、擬音の低減による測定精度の改善が確認されたが、低周波数帯域での測定精度が依然として悪く、2018年度には実験・数値解析を通してその原因を突き止め、改善手法を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の申請時の研究計画どおり、2017年度はパラメトリックスピーカの音源信号として用いる超音波の非線形駆動による測定誤差を低減し、測定手法として確立するための検討として実験室および現場での測定を重ねた。可聴音の測定に際し同時に受音される超音波がマイクロホンの振動面で擬音と呼ばれる局所ひずみを起こし、測定誤差の要因となる。これを低減するための手法として、フォノニック結晶・音源信号の位相反転駆動を用いた。実験室・現場での測定を重ね、これらの2つの手法により擬音を低減し、測定精度を改善することができた。しかし、1 kHz以下の低周波数帯域では依然として精度が低いため、建築音響の分野で測定手法として用いるには測定可能な周波数帯域をさらに広げる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討により、擬音に起因する誤差を2つの手法により低減することで1 kHz以上の帯域の測定の精度はある程度確保されることがわかった。しかし、1kHz以下の帯域の精度はさらに改善の必要があるため、本年度は低周波数帯域の精度の改善のため、実験だけでなく数値解析も利用して検討を進める。また、垂直入射吸音率だけでなく斜入射吸音率やインピーダンス・反射特性など他の音響特性の測定手法も考案する必要がある。それらの検討を通して、測定可能な周波数帯域・音源と測定領域の幾何的関係・暗騒音レベルなど、測定条件を整理し、測定の適用範囲を定める予定である。 さらに、3次元の音響シミュレーションシステムを開発するという最終目標に向けて、測定した境界条件を数値シミュレーション等へと適用する方法等も検討する。
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