研究課題/領域番号 |
17J08356
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
直町 聡子 東京理科大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 海水 / 化学反応 / 空隙構造変化 / 細孔溶液組成 |
研究実績の概要 |
平成29年度は海水が浸透したときのセメント硬化体の化学反応,化学反応に伴う空隙構造変化,それらの現象による細孔溶液組成の変化を理解することを目的とした.多種イオンの反応を把握するため,モルタルとセメントペーストをNaCl/人工海水に浸せきし物質の分析をした.セメント硬化体に対して人工海水溶液質量が,4倍では劣化せず10倍で劣化した.劣化原因を把握するために,熱力学的相平衡(地球化学コードPhreeqCで計算)に基づき海水とセメント硬化体の反応を計算した結果と実験結果を比較したところ,Ca(OH)2の溶脱とエトリンガイトの膨張が寄与していると考えられる.さらに,化学反応がCl-浸透に及ぼす影響を把握するため,モルタルとコンクリートをNaCl/NaCl+硫酸塩/人工海水に浸せきしCl-濃度分布を測定した.モルタルは,共存イオンの種類によって表面の生成物が異なり(SO42-が含まれる場合エトリンガイト生成,Mg2+が含まれる場合脆弱物質生成),Cl-浸透フロントに影響することを明確にした.一方で,コンクリートは共存イオン種類に寄らず,全て同様のCl-浸透性状を示した.また,化学反応に伴う空隙構造変化は,硫酸塩および人工海水にモルタルを浸せきし1ヶ月毎に電気泳動試験を用いて検討した.人工海水は浸せき1ヶ月から3ヶ月にかけて溶脱が進行し空隙構造が粗大化することが分かった.硫酸塩は,浸せき1ヶ月から3ヶ月は,Cl-の泳動を抑制し,3ヶ月以降は泳動するCl-が多くなったことから,空隙が充填後粗大化することを示唆した.細孔溶液組成については分析方法を確立し,練り込みと浸せきセメントペーストでは組成が異なることを把握した.海水とセメント硬化体の反応は,浸透に大きく影響する事を今年度実験的に把握した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では,化学反応の把握,空隙構造の評価,細孔溶液組成の検討の大きく3つある.化学反応の把握では,人工海水のイオン比率を変化せず濃度を海水,海水の2,0.5倍にし人工海水中のCl-濃度と同NaCl溶液で多種イオンの反応を検討した.セメントペーストと溶液量は,供試体の4,10倍の質量の溶液に浸漬した.約60日浸漬した供試体の物質をXRD/Rietveld法により定量した.供試体の10倍の溶液質量で海水イオン濃度の人工海水に浸漬すると,供試体が劣化した.劣化した要因はCa(OH)2の溶脱,エトリンガイトの膨張圧によるひび割れであると考えられた.一方で,イオン濃度が海水の2,0.5倍の浸漬人工海水の場合,CO2と溶液の反応によりCaCO3が生成した.CaCO3が供試体表面に析出し,供試体からのCa(OH)2溶脱が抑制された.この実験から浸漬溶液とCO2の反応も考慮し相平衡計算で反応を浸漬開始前に検討し,目的達成の実験条件を設定する必要があることを実感した.空隙構造の評価は,電気泳動試験を用いてモルタルの変質を定量的に評価することを試みた.人工海水に浸漬した場合溶脱が空隙構造に与える影響が支配的であり,硫酸塩に浸漬した場合外来イオンとの化学反応が空隙構造に大きく影響を与えることを把握し,イオン種類により空隙構造の変化の種類が異なることを明確にした.平成29年度の電気泳動試験した供試体数は,一度の実験で3体用いた.しかし,供試体により傾向が異なることが多かった.この原因は供試体の厚さや静置させた位置(浸せき溶液表面からの深さ)である可能性が考えられた.硬化体の反応を検討する際には,全ての条件を出来る限り同様で検討する必要があることが分かった.実験は計画通り進めており,結果に対する考察も積極的に様々な専門家達との議論からまとめたため,期待通りに研究が進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,平成29年度までの実験結果を用いてセメント硬化体への海水浸透をモデル化することを目的としている.計画では,干満帯を想定した乾湿繰返し試験もする予定だったが平成29年度の実験により明確となった海水劣化の原因を追究できていないことから,本研究で対象とする環境条件は海水中に変更する.さらに,平成29年度でモルタルとコンクリートでは溶液の共存イオンがCl-浸透性状に及ぼす影響が異なることを把握したため,計画には無かった粗骨材の有無が海水浸透に与える影響を把握する実験を平成30年度に実施する.平成29年度の実験も継続し,多種イオンの移動予測,化学反応とそれに伴う空隙構造の変化を予測,細孔溶液組成の変化を予測可能なモデルを構築する.多種イオンの移動予測は,Nernst-Plank式を用いる.海水とセメント硬化体の化学反応は,平成29年度,30年度実施予定の実験結果を基に熱力学的相平衡計算を用いたモデルを構築する.さらに,化学反応に伴う空隙構造の変化は,実験結果を基にモデルを作成する.計画としては,理論に基づいたモデルを構築する予定であったが,平成29年度の実験結果から理論と結びつけることが困難であることが分かったため,化学反応は理論のモデルを構築し,イオン移動の式であるNernst-Plank式の拡散係数に空隙構造の変化の実験結果に基づいた実験式を組み込むモデルを構築する.
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