研究課題/領域番号 |
17J08400
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
白米 優一 愛媛大学, 連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 巨大菌 / レアメタル / ディスプロシウム / ポリγグルタミン酸 |
研究実績の概要 |
レアメタルは“先端産業のビタミン”と呼ばれるほど我々の生活に密接に関わり、現代社会を支えている。しかし一方、現在に至るまで生物とレアメタルの関係に対する理解は乏しく、理解不足からその関係の重要性には未だ十分な関心が向けられていない。そのためレアメタルのような重金属類と生物の関係についていえば、イタイイタイ病に代表されるような公害を引き起こす環境因子という特徴がクローズアップされてきた。ところが近年の研究成果はレアメタルと生物の関係に従来とは異なる着眼点が必要であるということを強く示唆している。実際、我々の体に不可欠なビタミンB12はレアメタルのコバルトを必須因子として利用することが知られている。また、糖尿病の予防・改善にバナジウムが効果的とする研究論文が多数発表され、注目されている。 生物(微生物)とレアメタルの関係に対する理解が進めば、今後、新しい創薬の開発や新産業の開拓にも繋がると期待される。当該年度では、巨大菌にレアメタル依存性生体因子の存在を示唆するきっかけとなったポリγグルタミン酸(PGA)に改めて着目した。結果として、PGAの金属イオン吸着挙動は温度依存的であることが示唆され、我々人間が困難としているレアメタルの選別について微生物は温度変化を利用することで巧みな生存戦略を構築している可能性が考えられる。また、PGA合成遺伝子群にも着目したところ、広域転写制御因子として知られる“DegU”が認識する配列を巨大菌PGA合成遺伝子群上流に発見した。該合成遺伝子群上流ついてさらに精査した結果、リボスイッチ様モチーフの存在が示唆され、たった一塩基の増減でリボスイッチ様構造を生じる可能性のあるホットスポット領域を発見するまでに至っている。現在、該領域を中心として複製するプライマーを作製し、金属イオン吸着との関連性ついて重要なデータを得られつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究からPGAが三価金属イオン(試験対象金属イオン:ガリウム(Ga)、インジウム(In)、Dy)に対して協同吸着性を発揮し、金属回収に利用されているポリアクリル酸よりも優れた金属吸着能を持つことが明らかとなってきた。 化成ポリマーであるポリアクリル酸が金属イオン低濃度域から吸着能を発揮する双曲線型の吸着挙動を発揮する一方で、PGAは特定の濃度域から吸着するシグモイド型の吸着挙動を示した。このためPGAには、低濃度域ではイオン化状態の維持・貯蔵と輸送に関与し代謝を助け、高濃度域では凝集・沈殿させることで細胞に対する無毒化を図る生理的作用機序があると考察した。PGAが環境適応因子としても活用されていることを新たに見いだしたが、代謝に関与している可能性を考慮すると金属種に対する選択性の有無を調査する必要に迫られた。 調査した結果、驚くべきことに同族のGaとInにおいて温度依存的な吸着挙動の存在が判明し、さらにその挙動は大きく異なることが示唆された。Inでは、協同吸着能を発揮する温度域は限定的であるがその温度域において安定して高い協同性を示し、またGaは温度変化の上昇に伴って協同性が高まっていることが示された。一方、イオン親和性にも顕著な変化を確認できた。In、Gaともに温度が上昇するにつれて親和性が向上することまで突き止めている。 加えて、PGAの吸着性を利用することで機能性新素材の開発にも成功している。 具体的にはこれまで困難とされていたPGAベースのプラスチック素材や自重量の数千倍もの水を吸収するヒドロゲル化材である。微生物の生産するPGAの性質をより深く理解することで、新素材を生み出す技術戦略を獲得するまでに至った。学術的意義のみならず、産業的価値を秘めた技術戦略といえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、PGAの性質をより深く理解し、PGAをベースとした高機能材料化を図ることで技術戦略の基盤を整えるまでに至った。次の段階として、当該年度でもPGAの協同吸着能実験と並行して調査していた巨大菌のレアメタル依存性応答因子の存在についてより精査していく。具体的には、高次構造分析により示唆された巨大菌PGA合成遺伝子群上流のリボスイッチ様モチーフを引き続き調査していくとともに、転写制御因子“DegU”に焦点を当てていく。 DegUはプロテアーゼの分泌生産からDNAの受入れ能まで多元的な生命現象を司ることからグローバルレギュレーターの中でも最上位に位置する機能性タンパク質だと考えられている。しかしレアメタルに対する応答性分析や分子微生物学的な先行研究例は非常に乏しい。さらに納豆菌とは異なり巨大菌だけに、PGA合成オペロン上流に該タンパク質認識配列が複数カ所存在している点も興味深い。巨大菌DegUタンパク質についても精密機能分析を進める必要があると判断している。また、先の研究実績の概要で我々の体にも多くのレアメタルが必須因子として存在していることを紹介した。 加えて、遷移金属に属するような金属イオンはその価数を変化させることで物性を変化できることも知られている。突き詰めていけば、微生物であっても金属イオンを自身の代謝機能に適した形に酸化還元することが考えられる。そのため、巨大菌細胞内のDyが価数変化を起こすかどうかを知ることは生物とレアメタルの未だ限定的にしか理解されていない関係を前進させることに繋がると期待できる。具体的な価数変化の調査には生体XAFSの利用を検討中であり、今後の実験計画に取り入れることを想定している。
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