研究課題/領域番号 |
17J08499
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 彰典 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 視機能 / セロトニン / ラット |
研究実績の概要 |
縫線核から脳全体に放出されるセロトニンは、覚醒状態や情動など様々な脳機能の調整に関わる神経修飾物質のひとつであり、行動文脈依存的に分泌されるのが特徴である。しかしながら、実際に行動文脈依存的に分泌されるセロトニンが視知覚においてどのような役割を果たしているのかは依然明らかになっていなかった。そこで本研究では、神経修飾物質の一つであるセロトニンが視覚機能に及ぼす影響を、ラットを対象として心理物理実験と電気生理実験の両面から検討することを目的とした。 当該年度においては、視覚刺激検出課題遂行中の頭部固定下ラットから神経活動記録を行うことで、刺激検出行動と神経活動に対するセロトニンの効果を同時に検討する実験系の構築を行った。具体的には、1)視覚刺激の生成・呈示プログラムや2)動物のレバー操作を検出するプログラムなどを含む実験課題制御プログラムの作成、3)頭部固定用プレート装着技法の確立、4)課題を学習するためのトレーニングプログラムの生成とトレーニングプロトコルの確立を行った。トレーニングプロトコルとしては、術後1週間後に学習を開始し、その後概ね2週間以内に学習が成立する効率的なプロトコルを確立することができた。次に、学習成立後のラットを用い、視覚刺激検出課題を遂行している動物の一次視覚野から神経活動記録を実施した。セロトニン再取り込み阻害剤の1種であるシタロプラムを尾静脈から投与し、投与前後の課題成績および神経活動を比較することで、セロトニンの効果を同時に検討した。その結果、0.1 mg/kgのシタロプラムは、一次視覚野ニューロンの神経活動を抑制する傾向が観察されたが、課題成績には顕著な影響は見られなかった。 そこで、次年度以降は、課題成績に効果が表れるシタロプラム濃度を検討し、行動レベルの課題成績の変化とニューロンレベルの神経活動の変化の関係を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の計画は、①視覚刺激検出をさせて視知覚を評価しながら同時に細胞外電気記録による神経活動を記録できる実験系の構築および課題遂行中の神経活動の同時記録、②複数領野間でのニューロン活動記録のため、現在使用している電気生理実験システムを拡張し、複数領野間での細胞外で電気記録実験プロトコルを確立、③光遺伝学導入を目的とし、セロトニン神経に対するチャネルロドプシンの発現、および光刺激システムの構築、であった。このうち①と②に関しては達成され、①については実験系の構築を行い、実際に課題遂行中の神経活動を記録し、セロトニン再取り込み阻害剤の1種であるシタロプラム投与の影響を調べた。②についても複数領野からの記録を行うシステムは構築している。一方③に関しては、導入までは達成できなかったものの、導入準備を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、まず頭部固定下ラットを用いて視覚刺激検出課題のみを行わせることで、課題成績に効果がある選択的セロトニン再取り込み阻害剤の投与濃度を検討する。その後、検討した濃度を用いて刺激検出課題遂行中の頭部固定下ラットからの神経活動記録を行うことで、脳内セロトニン濃度が増加した時の、行動レベルの課題成績の変化とラット一次視覚野神経活動の変化の関係を明らかにする。さらに、高次視覚領野をはじめとした、一次視覚野と連絡している他の領野とで同時に神経活動を記録しながら同様の実験を行うことにより、領野間での情報伝達に対するセロトニンの影響を調べる。領野間の視覚情報伝達に対するセロトニンの役割を調べることで、視知覚形成におけるセロトニンの役割についてより詳細な検討を行う。
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