研究課題
これまでのスクリーニング等で得られたデータを基に選択した候補菌について、実際の宿主への影響を細胞レベルと個体レベルで検討するため、①In vitro共培養系で細胞レベルの、②In vivo動物実験で個体レベルの、2パターンのアプローチ方法から解析を行った。①In vitro共培養系嫌気性腸内細菌と宿主培養細胞のin vitro共培養システムの立ち上げを行った。本システムを用い、Caco-2細胞と候補菌の共培養を行った。TEER測定、免疫染色による観察および遺伝子発現解析からCaco-2細胞の応答を、CFU測定から候補菌の増殖を、培地のメタボローム解析から両者の相互作用を担う具体的な物質の探索も試みた。候補菌と共培養することで、発現が上昇する炎症系遺伝子もあったが、逆に抑制されるものもあった。また、TEER値の上昇や、タイトジャンクション関連遺伝子発現の促進といった、単独で培養とは異なる応答がCaco-2細胞で見られた。その一方で、培養細胞との共培養により、菌の増殖も制御される事実が見出された。②In vivoマウス実験候補菌が実際の生体に対しどのような影響を及ぼすかを検討するため、マウス実験を行った。コンベンショナルマウスに、候補菌を一定期間反復投与し、糞便サンプルを回収、最終日には解剖して各臓器を採取した。糞便サンプルから腸内細菌ゲノムDNAを抽出し、16S rDNA NGSによる菌叢解析あるいは候補菌特異的プライマーによる菌数定量を行った。また、糞便中物質を抽出し、適切な方法で定量を行った。また、回収した臓器組織については、total RNAを抽出し、遺伝子発現解析を、あるいは病理切片を作成して観察を行った(共同研究)。
2: おおむね順調に進展している
本年度は産休・育休から4月に復帰した。産休取得前までに、In vitroのスクリーニング実験を概ね完了し、候補菌の絞り込みが完了していたため、迅速に研究活動を再開することができた。その中で、In vitro実験系から、実際の生体における検討へと展開したことが重要な点である。方法としては、培養細胞をもちいた共培養系における検討と、マウスを用いた動物実験系における検討を行った。いずれの実験系も、本課題においては新しい取り組みであるため、まずはベースとなる条件検討を行った。特に、共培養は、実験系として全く新しい試みであったため、細胞の単独培養からシステム運用手法の確立から行ったが、必要となる基礎データの大部分を取得することができた。動物実験についても、餌や飼育・投与期間等の予備検討を行い、実験条件を決定した。いずれにおいても、候補菌を実際に用いる段階へと進むことができたため、研究の振興としては概ね計画通りに進んでいる。
本年度は、注目すべき候補菌について、実際の宿主への影響を細胞レベルと個体レベルで検討するため、①In vitro共培養系で細胞レベルの、②In vivo動物実験で個体レベルの、2パターンのアプローチ方法から解析を行った。①In vitro共培養系新たに確立した共培養システムを用い、候補菌とCaco-2細胞の共培養を行った結果、Caco-2細胞側および候補菌側いずれにおいても、単独培養とは異なる応答を示すことが示唆された。このことは、菌とCaco-2間には、両方向の制御機構が存在することを示唆している。実際に、培地成分のメタボローム解析においても、共培養時特異的に変化する物質が複数見出されており、両方向制御を担う本体である可能性が考えられる。これらは、腸脳相関と直接関わるものではないが、本システムにおいて両者が共培養および、それに続く培養細胞側と細菌側、両者を繋ぐ因子、という一連の検討が可能であることを示した。これを基に、本来のテーマである腸脳相関に関わるメカニズム解明を目的とした解析に展開する。②In vivoマウス実験候補菌をマウス投与し、糞便サンプル、各臓器の回収を行った。臓器組織における遺伝子発現解析、病理切片の観察(共同研究)については、現在進行中であるため。結果が得られ次第、糞便サンプルの菌叢解析やターゲット分子の測定結果と合わせ、議論する。また、血液サンプルについては検討ができなかったため、本年度は解析対象に加える予定である。
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