セッケル症候群(SS)は小頭症、低身長などの症候を示す希少疾患である。SSの遺伝子変異として複製ストレス応答を制御するATR遺伝子の変異(ATR-Seckel変異)が同定されている。ATR-Seckel変異の影響として、患者さんの線維芽細胞においてATR遺伝子のエキソン9のスプライシング異常を起こすことが知られている。しかしながら、この変異を持つiPS細胞(SS-iPS細胞)を樹立したところ、iPS細胞ではスプライシング異常が軽減され、神経前駆細胞(NPCs)ではスプライシング異常が生じていた。NPCsにおけるATR-Seckel変異の影響を調べるために、ATR活性及び分裂紡錘体の形態を検証した。SS-NPCsにおいて複製ストレスに対するATR活性の低下と異常な紡錘体形成の割合が上昇した。化合物を用いたスプライシング異常の回復実験も行った。CLK1阻害剤であるTG003がSS-NPCsおいてスプライシング異常を抑制し、ATRの応答が上昇し、紡錘体形成異常の頻度も低下した。 次に細胞種特異的の機構解明に取り組んだ。ATR-Seckel変異が入ることで結合能が変動するRNA結合タンパク質をin silico予測し、二つの因子を特定した。RNAプルダウンを行ったところ、変異型とWT型のATRエキソン9 RNAに対するこれらの因子の結合能が異なった。さらに、二つの因子の発現抑制実験を行った結果、一種類のみiPS細胞でATRエキソン9 のスキッピングを促進した。細胞種によってこの候補因子の発現量の差を確認したが、SS-iPS細胞とSS-NPCsにおいて差がみられなかった。RIP-qPCRを行うことで、候補因子がNPCsの状態と比較してiPS細胞の状態で変異型ATRエキソン9への結合能が強くなっていた。iPS細胞における候補因子のスプライシングへの影響を示唆する結果が得られた。
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