研究課題/領域番号 |
17J08575
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
宇塚 明洋 総合研究大学院大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞内共生 / 光合成酸化ストレス / 藻類捕食者 / アメーバ |
研究実績の概要 |
本研究では、非光合成原生生物が光合成生物を明条件下で捕食した時に、捕食者は細胞内に取り込んだエサの光合成由来の酸化ストレスに晒されるのか、またその場合に捕食者は何らかの対処法を持っているのかという理解を通した真核生物による葉緑体の獲得過程の理解を目的とした。湿原より単離したアメーバを捕食者、シアノバクテリアを光合成性のエサとして以前行ったRNA-seq解析より、アメーバがシアノバクテリアを明条件下で捕食しているときにはアクトミオシン関連の遺伝子群がダウンレギュレートするという結果が得られた。これを踏まえ、光合成酸化ストレスへの対処という観点から、明条件下では光合成酸化ストレスの原因であるエサの取り込みが抑制させるという仮説を立てた。この検証のために、蛍光ビーズを用いてアメーバが光合成性または非光合成性のエサを捕食しているときの明条件と暗条件での捕食速度の差を調べると、光合成性のエサの場合には明条件で捕食速度が低下することが実証された。この結果を受け、この条件下で既に食胞内に取り込まれているエサはより早く取り除かれると予想した。細胞膜を蛍光色素で染色したエサを用いて消化にかかる時間を調べると、光合成性のエサを明条件で捕食しているときには、暗条件と比べて捕食速度が加速した。ここまでの結果をまとめると、アメーバは、光合成性のエサ由来の酸化ストレスを回避しつつ、エサとしても利用するために細胞内に存在するエサの量を光合成酸化ストレスの強度に応じて捕食速度や消化速度を介して調整していると考えられる。本研究で以前に得た結果である光合成生物を強光下で捕食するとアメーバが死ぬこと、及び今年度の結果を合わせて考えると、捕食者が光合成酸化ストレスへの対処機構を獲得することは、光合成生物の捕食に始まる細胞内共生を通した葉緑体獲得過程を辿るための基本的な条件の一つとして重要な意味を持つと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗を申請書における研究計画と比較すると、研究目的の範囲内ではあるが実験系確立の困難や新しいデータを踏まえてのいくつかの変更があった。明条件下において光合成生物を消化中のアメーバが晒されるであろうと予想された光合成酸化ストレスを定量するために複数の方法で活性酸素種の定量を試みたが評価可能な実験系を構築することはできなかった。代替案として、この条件におけるアメーバの細胞数の減少の定量、死細胞の検出および細胞破裂の観測を行った。RNA-seq解析で観測された液胞型プロトンポンプのアップレギュレートから予測した食胞酸性化の定量の試みは当該遺伝子の発現変動の幅が1.5倍を切るほど小さいということもあり保留としたが、この発現変動傾向および本来予定していた他の実験の結果からも予測された消化促進の定量化には成功した。RNA-seq解析については新しいサンプルも加えて当初の予定どおりにデータの解析を進めた。また、アクトミオシン関連の遺伝子群のダウンレギュレートから予測したアメーバの移動速度低下の定量は以前の結果においてその差が小さかったことから保留し、同様に予測され、顕微鏡での観察からも予測していた捕食速度の低下を定量した。ここまでの結果をまとめ論文作成に移った。当初の予定に対して実験の内容は異なるが研究目的はおおよそ達成できたことから、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行ったRMA-seq解析では一部のサンプルを除いて再現実験を行っていない。したがって可能な範囲で再現性を確認した上でこれまでの結果に統合し論文を投稿する予定である。これまでは解析対象を三種類のアメーバのみに限ってきたため、研究対象である非光合成単細胞捕食者における光合成性のエサ由来の光合成酸化ストレス対処機構の一般性にはまだ追求の余地がある。これについては、当初の予定通りアメーバに限らず様々な系統の藻類捕食者を採集し、本研究で確立した実験系を適用することで達成可能であると期待している。
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