これまでの研究ではスフェロイド間相互作用の影響によってスフェロイド近傍の酸素環境が変化し、iPSスフェロイドの分化特性が変動することを明らかにしてきた。さらに、この現象のメカニズムを探索すると、自己分泌タンパク質であるWnt5aの発現が分化特性の調節に関与している可能性を見出した。 当年度は独自のマイクロウェルチップ技術を利用して幹細胞スフェロイド近傍の酸素環境を変化させ、酸素環境の変動と幹細胞分化特性の相関性について評価した。酸素非透過性基板と酸素供給量がおよそ15倍向上する酸素透過性基板を用いて神経幹細胞(NSC)および間葉系幹細胞(MSC)スフェロイド培養を行った。両基板における分化特性を比較したところ、どちらの幹細胞スフェロイドにおいても酸素透過性基板で分化速度が向上した。このことから幹細胞スフェロイドの酸素応答性には違いがあり、iPS細胞は酸素環境変化に敏感な幹細胞種であることが考えられる。 また幹細胞スフェロイドの酸素応答現象の発展研究として肝細胞と脂肪組織由来幹細胞(ADSC)を共培養させた共培養化スフェロイドにおける機能発現と酸素環境の相関性について評価した。その結果、酸素供給性の違いによって向上する肝特異的機能発現に違いが生じた。この現象は肝細胞のみで構築されたスフェロイドでは発生しなかったことから、ADSCの存在が共培養化スフェロイドにおける酸素応答現象に関与していることが推測される。そこでこの現象のメカニズムを探索したところ、WntタンパクならびにTGFβ1の発現が肝細胞の機能発現に関与している可能性を見出した。 これらの結果より、酸素応答性に違いは生じるものの、スフェロイド近傍の酸素環境に応じたWntタンパク発現の発現はあらゆる幹細胞分化特性を支配する共通のメカニズムである可能性を本研究によって明らかとした。
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