研究課題/領域番号 |
17J08787
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上久保 綾祐 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | オレアミド / NAFLD / CD36 |
研究実績の概要 |
メタボリック症候群は、内臓脂肪型肥満に加えて高血糖、高血圧、脂質代謝異常を併発する病態であり、先進諸国での患者数の増加が社会問題となっている。とりわけ、メタボリック症候群の肝臓における表現型と言われている非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、進行によって肝硬変や肝癌になる可能性があるにもかかわらず、現在までに有効な治療法は確立されていない。クローブなどの食品に含まれるベータ・カリオフィレンは、カンナビノイド2型受容体(CB2)の活性化を介して、肝細胞の脂肪蓄積抑制や、高脂肪食負荷による肥満及びNAFLDの予防に有効であることを明らかにしている。 一方で、生体内でのカンナビノイド受容体のリガンドの多くは脂肪酸アミド化合物であることから、脂肪酸アミド化合物をスクリーニングし、肝細胞の脂肪蓄積を抑制する化合物を探索した。その結果、生体内はもとより、セロリシードなどの食品にも含まれるオレアミド(オレイン酸アミド)が肝細胞の脂肪蓄積を顕著に抑制することが判明した。そこで、オレアミドの脂肪蓄積抑制作用の機構解明を試みたところ、オレアミドは長鎖脂肪酸の細胞内取り込みに関与するCD36に作用し、脂肪酸の細胞内取り込みを抑制する可能性が明らかになった。このことは生体内に存在するオレアミドが脂肪酸代謝に関与することを示唆している。肥満などの疾患で遊離脂肪酸の肝臓への取り込みが増加し、NAFLDが誘発されることと、血中オレアミドの量に相関関係が認められるならば、オレアミドのバイオマーカーとしての応用や、オレアミド量が変動するメカニズムの解析など、オレアミドの新たな生理学的な役割を検証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪酸アミド化合物のスクリーニングの結果、オレアミドが脂肪蓄積抑制効果を有することが判明した。そこで、肝臓細胞内で脂質代謝を司るAMP活性化プロテインキナーゼのリン酸化レベルを評価したが、オレアミド添加による変化は認められなかった。また、CB2アゴニストであるベータ・カリオフィレンには、蓄積脂肪を分解する作用が認められた一方、オレアミドはその効果を示さなかった。さらに、既知のオレアミド受容体の阻害剤やカンナビノイド受容体の阻害剤とオレアミドを共処理した場合でも、オレアミドの脂肪蓄積抑制効果は打ち消されなかったことから、オレアミドの作用標的の探索は困難を極めた。 蛍光標識脂肪酸の細胞内取り込みを評価した結果、オレアミド処理によって細胞内への脂肪酸取り込みが顕著に抑制されることが判明したことから、肝臓細胞の膜表面に発現する脂肪酸受容体CD36に着目した。siRNAまたはCD36阻害剤を用いた結果、オレアミドによる脂肪蓄積抑制効果が打ち消されたことから、オレアミドの作用標的はCD36であることが推察された。 このように、オレアミドの新規作用点を推定し、CD36の関与を示唆することができたため、概ね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
オレアミドとCD36との相互作用を示すために、表面プラズモン共鳴法を利用した解析を検討している。CD36は膜タンパク質であり、可溶化や精製が困難であることが予想されるため、CD36の外部ドメインのみを発現するコンストラクトを作製し、哺乳動物細胞で発現させることで、目的タンパク質の発現・精製を試みる。十分量のタンパク質が得られた場合は結晶構造解析を行い、オレアミドとCD36の相互作用をより詳細に解析したい。また、個体レベルでのオレアミドの抗肥満効果を検証するため、高脂肪食負荷またはob/obマウスにオレアミドを経口投与し、体重の変化や血中パラメーターを測定する。生体内のオレアミドの濃度については議論があることから、安定同位体希釈法を用いた生体内オレアミドのLC-MS/MSによる検出・定量法についても確立し、オレアミドの肥満における生理学的な役割を明らかにする予定である。
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