本研究の目的は、平和的な社会関係の構築や維持・再生産に果たす贈与交換の働き(特にモノの役割)に注目しながら、「民族紛争」中のソロモン諸島ガダルカナル島民の生活戦略と紛争後の日常生活を解明することである。計画3年目にあたる2019年度は、下記の成果を得た。 (1)ガダルカナル島北東部および西部において、紛争渦中の村落部における個人的な加害・被害経験の聞き取り調査を行なった。この調査から、避難行動と生活実態に関する新たな口述資料、避難に係る家屋移転方法の民族誌資料、当該地域住民と国内マイノリティ(キリバス系移民)との軋轢等に関する口述資料を集積した。 (2)ソロモン諸島の贈与交換財として重要な役割を果たす貝貨について、マライタ島中西部ランガランガの人びとを対象に、彼らの生計活動の参与観察と聞き取り調査を行なった。この調査から、現代の貝貨製作過程と彼らの漁撈活動に関する民族誌資料、ランガランガの人びととマライタ島本島の他言語集団との交換経済に関する現地資料を得た。また、紛争処理や婚姻儀礼での貝貨のやり取りが集団間関係を操作する具体的な様態について新たな民族誌資料を集積した。 (3)これまでの研究成果をもとに、伝統的統治・平和・教会省の職員やソロモン諸島国立大学の教員らと討論し、紛争後社会の再構築における重要論点である補償をめぐる課題について認識を共有した。 (4)博士論文「生成される平和の民族誌―ソロモン諸島における「民族紛争」と日常性の人類学」を執筆、提出して学位を授与された。また、昨年度に日本語で発表した研究成果(ソロモン諸島における貝貨の現代的用法に関する考察)をEast Asian Anthropological Association(EAAA)の2019年度年次集会にて口頭発表した。
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