研究課題/領域番号 |
17J08848
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
浜元 宏太 琉球大学, 保健学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 薬剤耐性菌 / ESBL / Insertion sequence |
研究実績の概要 |
CTX-M型基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌は様々な抗菌薬に対して耐性を示す薬剤耐性菌の一つである。近年、院内及び市中においてプラスミドから染色体に転移したblaCTX-M(染色体性blaCTX-M)を保有する細菌が高頻度に報告された。本研究では、CTX-M型ESBL産生菌をモデルとし、Insertion sequence (IS)によるプラスミドから染色体への薬剤耐性遺伝子の転移が薬剤耐性菌の出現に果たす役割の一端を明らかにすることを目的とした。本年度は①ISによりプラスミドから染色体に転移したCTX-M型ESBL遺伝子の発現量の確認、及び②CTX-M型ESBL遺伝子発現ユニットの転移の頻度と、影響する因子の解明の二点を目的とした。
上記①については実験手法上の問題から実験計画の変更を余儀なくされた。その為、blaCTX-M及びその上流のISを蛍光タンパク質に置き換えたモデルE. coli株を作製した。作製したモデルE. coli株の蛍光強度の違いを観察することで、blaCTX-M及びその上流のISの発現量を確認できる事が期待される。
上記②についてはISによるプラスミドから染色体へのblaCTX-Mの転移頻度を決定する為のモデルE. coli株を作製した。作製したモデル株を一定条件で培養することにより、プラスミドから染色体へ転移したblaCTX-Mを保有するE. coliのみを効率的に選択培養することが可能なスクリーニング法を樹立した。樹立したスクリーニング法と分子生物学的テクニックを用いてblaCTX-Mのプラスミドから染色体への転移頻度(0.51%)を決定した。決定したblaCTX-Mのプラスミドから染色体への転移頻度は、染色体性blaCTX-Mを保有する細菌の市中、及び院内における高頻度な出現に寄与する因子である可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は①Insertion sequenceによりプラスミドから染色体に転移したCTX-M型ESBL遺伝子の発現量の確認、及び②CTX-M型ESBL遺伝子発現ユニットの転移の頻度と、影響する因子の解明の二点を目的として研究を行った。 上記①については、遺伝子の発現量を確認する為のリアルタイムPCRを行う上で、DNAポリメラーゼに混入するE. coliゲノムが障壁となった。そのため現在は遺伝子の発現を蛍光強度として検出することが可能となるような遺伝子組み換え大腸菌を作製することで、当初の研究計画に支障がないように研究を進めている。
上記②については、当初の研究計画に沿ってCTX-M型ESBL遺伝子発現ユニットの転移の頻度を決定することができた。その研究成果について、2018年3月に開催された日本細菌学会にてポスター発表をおこなった。また更なる実験によって得られた詳細なデータを含めた研究成果は、2018年6月に開催される米国細菌学会においてポスター発表を通した情報発信が予定されている。現在これらの研究成果をまとめ、薬剤耐性菌分野で重要な海外学術誌であるAntimicrobial Agents and Chemotherapy誌へ投稿中である。本年度に行ったこれらの学会発表や論文投稿から研究が良好に進展していると評価する事ができる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の二点を目的として研究を進める。目的①:薬剤耐性遺伝子がISによりプラスミドから染色体に転移することによる発現量への影響、目的②:①の転移があった薬剤耐性遺伝子がどの程度安定であるのか。 目的①について、プラスミドから染色体に転移したCTX-M型ESBL遺伝子(染色体性blaCTX-M)、及びblaCTX-Mの転移に関わるISEcp1の発現量について確認する為に定量的RT-PCRを行う予定であった。しかしながら、定量的RT-PCRを行う際に用いるDNAポリメラーゼには製造段階で混入するE. coliゲノムDNAが混入しており、正しく遺伝子の発現量を評価することができなかった。そのため、遺伝子の発現量を評価方法の変更を余儀なくされた。そこで本年度は実験株E. coliDH5αの染色体上に、IS及びその下流のblaCTX-Mを含む領域(blaCTX-M発現ユニット)を挿入した実験モデル株を作製する。IS及びblaCTX-Mを蛍光タンパク質に置き換え、その蛍光強度を確認する事で、遺伝子の発現量の確認を試みる。目的②について、blaCTX-M遺伝子発現ユニットが染色体もしくはプラスミドに位置する臨床分離株を抗菌薬の入ってない培地に培養し、7日間継代する。その後blaCTX-Mの安定性の評価として、ⅰ)抗菌薬入りの寒天培地に一定の菌数を摂取後、培養後の生菌数の確認、ⅱ)S1-nuclease パルスフィールドゲル電気泳動及びサザンブロットハイブリダイゼーションによるプラスミド及び染色体上に位置するblaCTX-Mの確認を行う。以上の手順を繰り返すことでCTX-M型ESBL遺伝子の安定性を確認する。 得られた研究成果をまとめ、国内外の学術集会における研究発表を予定している。
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