研究課題/領域番号 |
17J08860
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
寺村 美里 立命館大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 光合成細菌 / 光合成色素 / バクテリオクロロフィル / 酵素反応 / 生合成 |
研究実績の概要 |
本研究では緑色硫黄細菌が持つクロロゾームと呼ばれる光捕集アンテナの形成過程をin vitro で再現する系の構築を目的としている。クロロゾームは脂質単分子膜からなる小胞体内部にクロロフィル色素が高濃度で存在しており、光合成生物の中で最も高い光捕集能力を示す。本研究では、色素合成酵素によって合成されたクロロフィルが、クロロゾーム型の会合体を形成し、光捕集アンテナとしての機能を果たすまでの過程をin vitroで再現する。具体的には、まず色素合成酵素の機能を調べ、in vitroでの反応条件および基質特異性を調べる。次にそれらの酵素を複数用いて脂質膜上での色素合成系を構築する。さらに色素合成からクロロゾーム形成までのプロセスをin vitroで再現して、人工クロロゾームの光機能性ナノデバイスとしての機能を評価する。 当該年度では、クロロフィル合成酵素の機能解析を以下のように進めてきた。緑色硫黄細菌由来の酵素遺伝子を中心に大腸菌や光合成細菌に組み込み、酵素を大量発現させた。酵素とクロロフィル生合成中間体とのin vitroでの酵素反応を、水溶液と有機溶媒の混合系中で行った。基質分子は光合成生物から抽出したクロロフィルを化学的に修飾することで調製した。それらの類縁体も調製し、多様な基質分子を確保した。補酵素の探索も含めた酵素反応系の確立を行い、酵素の基質特異性および反応機構を調べた。これらの反応は、高液体クロマトグラフィーや質量分析・紫外可視分光法を用いて分析した。 色素合成系の詳細な情報を提供する本研究は、色素の生合成経路解明に繋がる。加えて、色素合成系の再構築は代謝機能に関する知見を与える。さらに、色素を主成分とする光捕集アンテナ器官の形成過程・機能を分子レベルで解明でき、光合成研究発展の一助となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的である、光合成色素合成酵素およびクロロフィル生合成経路の解明と、光捕集アンテナの形成過程をin vitroで再現する系の構築を行うため、具体的に以下のように研究を進めてきたので報告する。 ①酵素溶液の調製:緑色硫黄細菌・緑色繊維状細菌・クロラシドバクテリウム由来の3位ビニル基水和酵素(BchF, BchV)、緑色硫黄細菌由来の132位メトキシカルボニル基脱離酵素(BciC)、紅色細菌由来のクロロフィリド酸化還元酵素(COR)および3位酸化還元酵素(BchC)の計5種類のクロロフィル生合成酵素の調製を行った。それぞれの酵素を大腸菌内で大量発現させ、その破砕液を酵素溶液とした。 ②クロロフィル色素の合成:酵素反応の基質と目されるクロロフィル生合成中間体や反応生成物の標品となるクロロフィル色素の合成を行った。シアノバクテリアや紅色細菌、緑色細菌といった光合成細菌から抽出した天然色素を原料とし、有機化学的に修飾を行うことで順調に進んでいる。天然でみられるクロロフィル生合成中間体に加えて、その類縁体も調製し、多様な基質分子を確保している。③生体外での酵素反応:上記のクロロフィル合成酵素溶液のうち、これまで反応系が構築されていなかった酵素については反応系の構築を行った。その他の酵素については、これまで報告してきた条件を用いて実験を進めた。さらに、既にin vitro反応系の構築に成功している5種類の酵素を対象に、有機合成した多様な基質を用いて基質特異性の検討を行っている。 ⑤研究発表:上記の実験結果について、3報の論文発表と7件の学会発表を通じて報告した。また2017年11月にインドで行われた国際学会においては、若手発表者の中から特に優れた研究を行った者に授与される「Young Talents Award」を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
未だ生体外での反応が報告されていないクロロフィル合成酵素種の反応系の構築を試みる。生体外での反応系が確立されている酵素については引き続き基質特異性を詳細に調べ、生合成経路の考察を行う。また、リポソーム系における反応系の構築に向け、反応場に用いる脂質の検討を行う。まずは生体膜に含まれている脂質を中心に、酵素の反応性に与える影響を調べる。さらに、基質や酵素の組み合わせを変えて、非天然クロロゾーム色素の合成も検討する。そして色素合成からクロロゾーム様の会合体形成までの過程を生体外で再現し、その光捕集ナノデバイスとしての機能を評価する。会合体の有無やその会合様式は、紫外可視吸収および円偏光二色性スペクトルの解析により確認する。また、動的光散乱法や電子顕微鏡を用いて、クロロゾームの巨視的な構造を観察する。さらに、クロロゾームを構成する色素分子の構造が与える影響についても考察する。これらの人工クロロゾームに、エネルギーアクセプターとなるクロロフィル分子を加え、エネルギー移動を調べる。エネルギー移動の確認は、蛍光発光スペクトル解析によって行う。異なる分子構造を持つクロロフィルから構成されたクロロゾームをそれぞれ比較し、その機能を評価する。得られた結果をまとめ、国内外の学会および論文で発表する予定である。
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