研究課題/領域番号 |
17J08881
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大谷 育恵 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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キーワード | 匈奴 / 漢 / 放射性炭素年代測定 / 考工 / 漢代の手工業生産 |
研究実績の概要 |
2年目である本年度は、匈奴墓に関する考古関係の文献資料の収集を前年度に引き続いて行った。特に、ロシアに所在する匈奴墓に関する考古関係の文献資料の収集を中心に進めた。匈奴の遺跡については、3年間の本研究の終了時に今後の匈奴研究において基礎資料とできる遺跡別の集成資料の公開ができればと考えていた。写真図版も入れた形での公表の準備のために協議を始め、条件面を調整した結果、邦訳版『匈奴:モンゴル最初の遊牧帝国』を刊行することになった。近年の匈奴考古学の成果を反映した書籍であり、2019年の刊行を目指して同書の訳出を進めると同時に、内容の再検討を進めた。 本研究のねらいである中国系文物に対する検討については、出土漆器について大きな成果があがった。昨年度、放射性炭素年代測定の資料として漆器片が提供されていたが、漆器は紀年銘文をもつ漢代の中央工官「考工」で製作された資料の破片であった。漢代のもう一つの工官である「蜀西」製の資料については実施例があったものの、考工製の漆器についてはこれまでプレパラートを作成して木地と漆塗の工程を観察がされた事例がなかったため、京都造形大学へ依頼して切片の作成と塗りの確認を行った。漆器全体の写真合成による復元、図化、ならびに銘文の釈読と漢代漆器資料との比較といった考古学的な側面の検討も進め、ロシア側の発掘調査者と共に論文を執筆し、The Asian Archaeologyに投稿した。このほかにも、匈奴墓から出土した漢字銘文のある資料について本年は集中的に検討し、漢代の手工業生産とその管理体制の変遷について検討を行った。 2019年7月から8月にかけて、ロシア側の調査機関が実施しているオルゴイトン遺跡の発掘調査に参加した。これによって匈奴墓の構造について発掘を通して理解を深めることができ、また本年度の放射性炭素年代測定については、この遺跡を中心にサンプルを採取して測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度参加ができなかったロシアでの匈奴墓の発掘調査にも計画どおり参加することができた。また、匈奴墓から出土した紀年銘を持つ漆器については、銘文の検討から漢代の手工業生産の一端を明らかにすることができ、また切片分析を行ったことによって、漆器の素地の点から漢代の漆芸に対して新たな視点を提供できた。ロシア側の調査担当者との協力関係もスムーズに築くことができ、成果の報告も査読誌への投稿へとつながっている。したがって、おおむね順調に進展しているを選択した。
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今後の研究の推進方策 |
研究終了年に予定していた匈奴考古学の基礎資料となる匈奴墓の集成資料については、最新の発掘調査成果と出土資料を図版を含めた形で公表するため、邦訳版『匈奴:モンゴル最初の遊牧帝国』の刊行ということになった。年度内への刊行へ向けて取り組んでゆく。また、基礎資料として本年度もモンゴルと韓国の共同調査報告書の邦訳版の公開を予定している。 本研究の中心となる中国系文物の検討については、引き続き漆器、金銀器、車馬具など個別資料ごとに漢墓出土資料との比較検討を進めてゆく。 放射性炭素年代測定についても、本年も継続して実施する。本年度委託するサンプルの測定は年度内に終了する予定ではあるものの、3年間分の結果をまとめた成果の公表については本年度中にはできないと思われる。サンプルの選定をロシア側と相談した結果、本年度夏の発掘で出土した資料を加えるため分析開始が秋になり、分析に3か月間を要することを考えると、その後の英文での報告作成ならびに投稿、掲載へは時間が足りない計算となる。3年間分の測定結果の報告については研究終了後の公表となってしまうが、なるべくスムーズに報告まで進むように努力してゆきたい。
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