研究課題/領域番号 |
17J08929
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大下 理世 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
|
キーワード | 民主主義の伝統 / 参加型民主主義 / 成熟した市民 / 歴史政策 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、旧西ドイツの転換期といわれるブラント政権期において、グスタフ・W・ハイネマン大統領による「民主主義の伝統」をめぐる歴史政策が果たした意義を考察するものである。本研究は、ドイツ史の転換期と言われる時代について、歴史と政治との緊張関係という重要な視角から考察するもので、ドイツ現代史研究に新たな知見を加える点で意義がある。 平成29年度は、研究実施計画に基づいてドイツで調査を行った。また、国内外の学会報告を通じて研究成果を公表し、研究の完成に必要な多くの助言を得た。 具体的な成果の内容として、ハイネマンの歴史政策の意義を以下に挙げる。第一に、歴史上の民衆運動への再評価を通じて、西ドイツのあらゆる国民に対して臣民根性を克服して、「成熟した市民」を育成したこと。ハイネマンはそれによって、西ドイツの民主主義に新たな価値である市民の参加を付け加えた。第二に、ハイネマンが民衆運動を「民主主義の伝統」として再評価する際、同時にそれに対置するものとして「官憲国家の伝統」を批判した。このような二項対立的な区分は、同時代に特に多くの批判を招いた。第三に、ハイネマンの歴史政策は、歴史解釈について批判を招いただけでなく、現代との関連で議論された。 社会の変容やブラント政権の改革の流れに沿ったハイネマンの言説が、賛同を得たのみならず、自己史の語り方やドイツ再統一問題をめぐる、野党政治家の批判や世論の分極化を招いたこと、また、批判に対してハイネマンが積極的に応答したことは注目に値し、それを手掛かりに、戦後西ドイツの転換点と言われるブラント政権期にハイネマンが果たした役割を検討できるのではないかと考え、引き続き研究を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、海外調査での史料収集、そして研究内容の進展の点で計画通りに研究が進捗した。博士論文についても、平成29年度中に東京大学で最初の審査に合格し、現在提出に向けて取り組んでいる。学会報告については、当初の計画よりも多く行った点で、評価できる。研究成果の点でも、ハイネマンの歴史政策を、その民主主義理解と同時代の反応に関して考察できた点で順調に進捗している。 他方で、予定していた学術論文への投稿については実現していない。ハイネマンの取り組みに対する同時代の批判や支持の内容についても考察した後、論文を投稿したいと考えたからである。平成30年度中の投稿を目指して現在、論文の準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、当初の予定通り、夏季休暇を利用して補足的な史料調査のためドイツに渡航する。その際、コーブレンツにある連邦文書館、そしてボンにあるフリードリヒ・エーベルト財団文書館にて、連邦大統領府文書、連邦内務省文書、ハイネマンの個人文書、そして日本で入手不可能な二次文献の収集を終える。 また、平成29年度の研究成果をふまえて平成30年7月に学術論文の投稿を行うべく準備を進める。具体的には、既に分析が済んでいるハイネマンの歴史政策の背景にある彼の歴史認識と民主主義理解およびそれに対する同時代の反応について、二次文献を利用して裏付けを行う。 さらに、平成30年度の2月までに東京大学に博士論文を提出する予定である。
|