研究実績の概要 |
臨床有害事象報告データベースFAERSを用いた薬物有害事象交絡因子の探索について, 以前発表した論文(Nagashima T et al., Scientific Reports, 2016)が注目を集めたおかげもあり, 今年度は複数の企業・研究機関と共同研究を進めることができた. しかしながら一方で, 本手法は従来の薬理学分野には無かった研究手法であるため, データに対する理解の程度や解釈の仕方に乖離があり, 研究者間で上手くコミュニケーションを取れず誤解を招いてしまう局面も度々生じてしまった. そこで, 薬剤疫学分野で頻繁に用いられているオッズ比やテーブル表現を, 薬理学分野で頻繁に用いられているバープロット表現に変換し, 適切な解釈の仕方, 頻繁に認められるバイアス, 指標, 統計的仮説検定法及びデータベース解析の欠点・限界についてまとめている最中である. 薬物Aによる有害事象を低下させる併用薬Bを探索する場合, その程度が強ければ強いほどデータのバラツキも大きくなってしまうという関係にあり, 特に最も程度が強い場合, 即ち0セルを含む分割表を扱う場合には通常のオッズ比やP値を計算することができず, 代替法として別の解析手法を適用しなければならない. これらの結果, データの解析・解釈の仕方は多岐にわたり, どうしても複雑化してしまう傾向にある. そのため現在では, このような複雑なデータを実験薬理学研究者にも伝わるよう簡潔に説明できるデータ表現法を考案しているところである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述したデータ表現・解釈におけるコミュニケーションの問題があったため, 研究の進行は若干遅れることとなった. 結果としては, 薬剤疫学研究及びバイオインフォマティクス研究により, クエチアピン誘発糖尿病やボルテゾミブ誘発末梢神経障害等, 複数の薬物有害事象の対策法について仮説を得ることに成功している. しかしながら, これらの仮説に対する実験薬理学的検証の一部については動物・細胞上で再現できず, 研究が滞ってしまっているものもある. これらについて, 仮説生成段階に問題があるのか, それとも作製した疾患モデル動物・細胞がヒトの病態を適切に模倣できていないのか判然としない状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
FAERSで得られた仮説について, 医薬品医療機器総合機構が管理する日本版の有害事象報告データベースJADERや, 株式会社JMDCが管理する健康保険レセプト情報データベースJMDC Claims Database等, FAERS以外の臨床データベースを用いた検証も実施したところ, FAERSで得られた仮説はJADER, JMDC Claims Database上でも一貫して成立していることを確認できている. これらの結果から, FAERSの解析で得られた仮説の妥当性については問題無いと考えられるため, 今後の研究の推進方策としては昨年度に引き続き, 薬理学的実験モデルの構築に力を入れ, 分子メカニズムの解明を進めていく予定である.
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