研究課題/領域番号 |
17J08978
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石野 咲子 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 南極 / 大気酸化力 / 三酸素同位体組成 / エアロゾル / 硫酸 |
研究実績の概要 |
本研究では、大気中の硫酸・硝酸の三酸素同位体組成(Δ17O値)に基づき、現在の南極大気中における「大気酸化力(各種大気酸化剤の濃度)」を復元することを目的としている。 本年度はまず、硫黄安定同位体指標に基づく南極大気中の硫酸起源の推定に取り組んだ。本研究で扱う硫酸のΔ17O値は、大気酸化力のみではなく、その硫酸の起源によっても変動する可能性があるため、複数の異なる起源の寄与率を定量的に評価する必要があった。この課題に対し、まず、試料処理速度を向上させるため、分析プロセスのハイスループット化を行い、1日の試料処理数を最大16試料まで可能にした(従来は2試料/日)。本手法は、国際学術誌で共著論文として発表した。確立した手法を用いて、南極沿岸部における大気硫酸試料の硫黄同位体比を分析した。結果、南極沿岸部においては年間90%以上の硫酸が、海洋表層の藻類が生成する硫化ジメチルに由来すると見積もられた。このことは、硫酸のΔ17O値が、周辺海洋~観測地点における大気酸化力を強く反映しており、他大陸起源などの硫酸の流入による指標情報の撹乱を受けにくいことを示唆している。 現在は、南極沿岸部・内陸部の2地点において採取された大気硫酸試料について、Δ17O値の分析を実施し、地域特異性の解明を進めている。特に、春から夏にかけて、沿岸部よりも内陸部でΔ17O値が有意に高くなる傾向が見られており、南極大陸内でも地域ごとに大気酸化環境が異なることが示唆されている。さらに、観測結果を定量的に解釈するため、大気化学輸送モデルを用いた大気酸化力および硫酸Δ17O値の推定に取り組んでいる。所属研究室内において計算機を整備し、モデルの基礎的な操作方法を習得した上で、硫酸Δ17O値の計算プログラムの構築を完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度に予定していた南極大気試料の安定同位体分析は概ね終了したが、想定外の結果が得られたため、データの解釈に遅れが生じている。一方で、モデルによる大気酸化環境の推定では、当初の計画どおり、ベースモデルにΔ17O値の計算プログラムを導入するステップまでを達成した。このため、総合的にはやや計画が遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
観測結果を制約条件としてモデルの最適条件(南極における特殊な大気化学プロセスのON/OFF、または強度)を定め、南極の大気酸化力の復元を達成する。
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